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本塁生還という記録について(後編)-2019年の成績と通算記録-

 今回は、前回の続きで本塁生還(HI)という記録についての記事です。前回は歴代の本塁生還王を振り返りましたが、今回は2019年の成績をもとに本塁生還王以外の選手の成績についても見ていこうと思います。その後で通算記録についても見ていきます。前回分を読んでいない方は、まず下記記事を読んでみてください。

baseball-datajumble.hatenablog.com

 というわけで、今回はネタ指標が満載ですが、興味のある方はご一読を。

 

1. 2019年のシーズン成績概況

 今シーズンの成績を振り返る前に、本塁生還、本塁生還率の式だけおさらいしておきます。

本塁生還(Home-in / HI)=得点-本塁打

本塁生還率(Home-in percentage / HIP)=本塁生還/出塁≒(得点-本塁打)/(安打+四死球+代走起用数*-本塁打)

*代走起用数は分かる場合のみ

でしたね。そして今回はこれに加え、何個かネタ指標を思いついたので紹介しておきます。

 一つ目は攻撃率(offensive Earned Run Average / oERA)という指標です。これは、投手の防御率に対抗する打者の攻撃率があっても良いのではないかという発想をもとに作ってみた指標です。計算式は、投手の防御率を

防御率(ERA)=自責点/投球回×9≒自責点/出場イニングにおける守備アウト数×1試合にかかる対戦打者数

と少し置き換えて解釈し、そこから

攻撃率(oERA)=得点/出場イニングにおける攻撃アウト数×1試合にかかる打席数≒得点/(規定アウト数*+(安打+四死球+代走起用数**-本塁打-本塁生還)×2)×(打席×27/獲得アウト数)

*規定アウト数=試合数×3.1×0.8;規定到達者の平均獲得アウト数(下式参照)から導出 **分からない場合は省略

としています。ここで出場イニングにおける攻撃アウト数とは、打者として出場したイニングでの打線全体のアウト数で、その打者個人が出場した試合で獲得し得たアウト数(ここでは、これを規定アウト数と言う)とその打者が残塁したときの打線のアウト数の和で表されます(なぜ攻撃アウト数の内訳に規定アウト数というややこしい指標を入れているかというと、打席数が少なく、アウト数に対する得点数が多くなってしまう代走起用の多い選手の過剰評価を防ぐためです)。また、獲得アウト数とは

獲得アウト数=打数-安打+犠打+犠飛+併殺打+盗塁死

で表される打者個人の喫したアウト数で、これで27を割り、打席数をかけることで1試合(=27アウト)が終わるまでにかかる打席数を出しています。

 攻撃率は端的に言うと、打者として1試合にどれだけ得点しているかという指標で、概念的にはRC27(Runed Created per 27 outs ; 同じ打者9人で構成された打線が1試合に取れる平均得点数)と似ていますが、チーム成績や通算成績が防御率と似たような数値(1.00~6.00くらい)を取ることを意識して作っています(・・・割りと無理矢理な解釈をしているので、セイバーメトリクスの専門家には怒られそうですね)。

 二つ目のネタ指標はこの攻撃率の分母を本塁生還数に変えて出したリードオフマン攻撃率(offensive Earned Home-in Average / oEHA)です。即ち、

リードオフマン攻撃率(oEHA)≒本塁生還/(規定アウト数+(安打+四死球+代走起用数-本塁打-本塁生還)×2)×(打席×27/獲得アウト数)

であり、リードオフマンとして1試合にどれだけ”生還”しているかを示す指標です。

 さらに、攻撃率、リードオフマン攻撃率をチーム成績に反映させるときには

チーム攻撃率(toERA)≒得点/(規定アウト数×9+(安打+四死球+代走起用数-本塁打-本塁生還)×2)×(打席×27/獲得アウト数)

チームリードオフマン攻撃率(toEHA)≒本塁生還/(規定アウト数×9+(安打+四死球+代走起用数-本塁打-本塁生還)×2)×(打席×27/獲得アウト数)

を用います。

 今回はこれらの指標をもとに、打者個人や打線の特徴を分析していきたいと思います。

 

 ではさっそく、今シーズンの本塁生還数のランキングをセ・リーグから見ていきましょう。 前回は本塁生還率(以下HIPとも)に代走起用数を反映していませんでしたが、今回は入れています。なお、打順はスタメン時の打順を平均したもの、先発はスタメン試合数になります。

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このように上位に固定されている選手ほど多くの生還数を積み重ねている
指標の面でも大島、近本らはHIP、oEHAともに高い数値を記録
その一方で、ほぼ4番に固定されていた鈴木誠也の成績が際立つ
鈴木はoERAとoEHAでいずれもリーグトップをマークしており、今季の広島打線が如何に鈴木の得点によって支えられていたかを示している

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HIPの低い選手が目立つ ビシエドのような代走を送られやすい選手はどうしてもHIPが低くなってしまう
HIPの低い選手はoEHAもいまいち伸びていない
逆にHIPの高い選手でも、植田のような代走起用が多い選手はoEHAが伸びない
代走起用の多い選手が良いリードオフマンというのはおかしいので、この点はoEHAの利点と言える
チームで見てみると、阪神のクリーンナップ以降の選手のHIPの低さが目立つ 走塁面の強化とランナーを還せる長距離砲の獲得が急務

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ここで、tHIPはチーム生還率、R/Gは1試合の平均得点数を示す toERAはR/Gと大体同じ値になっている
チーム生還数1位はなんと最下位のヤクルト どの指標も首位巨人とあまり変わらないことを考えると、投手力の差は当然だが勝ち方、負け方に差があるように感じる
来季は山田を再び一番に置けるくらいの中軸の成長に期待したい
中日は本塁打数は最下位ながら生還数では3位につけており、今年の打線の調子の良さが見て取れる
生還数1位を目指しつつ、僅差の試合をものにできれば上位浮上もあるかもしれない
DeNAは本塁打による得点は多いものの生還できる打者が少なく、上位打線が固定できないのが慢性的な課題となりつつある
筒香の動向も気になるが、本来の形に戻れば大幅な得点力アップも期待できるだけに、梶谷、桑原の復調に期待したい
今年はトップバッターに亀井が定着してしまった巨人は新戦力として巧打タイプのパーラを獲得 原監督がどのような打線を組むか見ものだ

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パ・リーグは、やはり西武山賊打線の得点力の高さが目を引く
秋山、源田、森、外崎の4人がoEHA4.5を超えていることから、得点力だけでなく残塁が少なく生還率が高い打線であることが分かる
平凡な成績に見えた9番の金子も重要な得点源であったことも分かる 秋山が居ない来季は中心選手として覚醒できるか
ロッテの荻野は34歳にして初の規定到達 ルーキー時に見せたリードオフマンとしての片鱗を見せてくれた

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レギュラーシーズンは2位に終わったソフトバンクは、HIP、oEHAともに低い選手が多く苦しい内容
柳田が居なかったことも大きいが、それ以上に牧原の不調、上林、中村晃の離脱により最後まで上位打線が安定しなかったのが敗因と言っていいだろう
ホークス以上に得点力不足に悩んでいるのがオリックス ロメロがいなくなる来季は宗ら若手の覚醒に期待しなければならない

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楽天はロッテと指標上では似たような数字だが、最後は投手陣の差で今年は順位を分け合った
鈴木大地の移籍がどう効いてくるのか注目だ
リードオフマンとしては茂木に加え、今季不調に終わった田中和基の復調に期待したい
日本ハムは西川、大田、近藤の上位打線は申し分ないだけに、中田に頼りがちな中軸に新戦力や若手の突き上げが欲しいところ

 

2. 通算本塁生還数ランキングトップ60

 次は、本塁生還数の通算記録になります。前回の記事からある程度予想できるので、ここは少し坦々と行きます。所属球団の欄の丸数字は本塁生還王のタイトル獲得回数になっています。それではどうぞ!

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本塁生還王それぞれ4回、3回受賞の赤星、青木が5.0を超えるoEHAを記録
日米通算で700生還を超える川﨑宗則もNPB通算ではoEHAが4.5を超える優秀なリードオフマンの一人

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ホームランバッターの門田、清原はHIP.250を切りながら750生還超えを記録
足が遅い打者にとっては本塁打を打つことより大変なことかもしれない

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アメリカでも活躍した田口はHIP.390と高い数値をマーク
メジャーでも同等の数字を残しており、あまりクローズアップされないが田口の生還力の高さが光る

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28位の金田正泰は18三塁打のシーズン記録を持つ阪神黎明期の主軸打者
呉昌征、藤村富美男らとともに強力阪神打線を率い、戦後の1946年に首位打者を獲得した
27位の白石勝巳は巨人、広島で活躍した名遊撃手
逆シングルの生みの親でもあり、両チームの黎明期を支えた

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川上哲治、青田昇らとともに巨人の最初の黄金時代を築いた千葉茂は選球眼が良い巧打の二塁手
長打力、決定力もあり、今の巨人に最も必要なタイプの選手

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本塁生還王獲得回数上位陣が続々登場
中でも広瀬は驚異のHIP.422をマーク
盗塁技術も相まって史上最高のリードオフマンの一人であることは間違いない

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NPB記録だった王貞治の通算生還数を超え、堂々の1位に立ったのが福本豊
HIP.400超え、通算oEHA歴代トップと世界の福本の名に偽りが無いことを証明してみせた
その福本を400近くも離し、日米通算生還数の1位に立っているのがイチロー
この二人の記録は、福本の通算盗塁数、イチローの日米通算安打数並にアンタッチャブルレコードかもしれない

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現役のNPB記録では、現在鳥谷が1位
2位の坂本は安打数と同様ペースが早く、8人目、史上最年少での1000生還達成も夢ではない
oEHAでは本塁生還王獲得経験者が高い数値をマーク
西川、山田らがどこまで記録を伸ばせるかにも注目だ

3. 本塁生還+打点(HPR)という指標について

 最後に、ここまで説明した本塁生還(HI)という指標に打点(RBI)を足した指標、HPRを少し紹介します。HPRの式は

HPR(Home-in plus Run batted in)=本塁生還+打点=得点+打点-本塁打

となり、得点に関わった回数を示します。得点と打点を足してしまうと本塁打が2回分カウントされてしまうのに対し、本塁生還と打点は完全に独立した指標であることを利用しています。これだけでは有用な指標であるかどうか分かりにくいので、手っ取り早く日米通算HPRのランキングトップ10を見てみましょう。

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 数字と文字が小さくて見にくいですが、上のグラフの青の部分が本塁生還、赤の部分が打点を示しています。どうでしょうか。何となくですが、選手の実績と比例関係にあるような気はしますね。本塁生還数が打点を上回る選手の方がHPRを伸ばしにくいのも良いバランスのような気がします。何より長いプロ野球の歴史の中で、王さんとイチローがワンツーフィニッシュというのが素晴らしいです。様々な意見はあると思いますが、私は気に入りました。

 

4. 終わりに

 以上で2回構成だった本塁生還についての話は終わりです。後半は得体のしれない指標が次々と登場しましたが、一番言いたいのは本塁生還(HI)という記録にもう少し注目してほしいということです。ホームランを打つトップバッターも良いですが、一番打者というのは出塁して本塁に生還するのが仕事なので、リードオフマンタイプの打者を評価するのにこんなにうってつけの指標はありません。しかしその一方で、打点と同様に打線に左右されやすく、個人の成果と呼ぶには難があるという一面も持っています。このように本塁生還関連の指標はまだまだ未開拓のところもあると思うので、このブログで今後も重点的に取り上げていきたいと思います。打線全体の評価に使ったりすると面白いかもしれませんね。次回はいつになるか分かりませんが、抑え投手の記事になると思います。それでは、また。

 

5. 参考サイト

NPB.jp 日本野球機構

プロ野球 - スポーツナビ

FanGraphs Baseball | Baseball Statistics and Analysis

- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 2019年度版