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2020年の赤星式盗塁ランキングとその他盗塁関連データまとめ

物凄く久しぶりの更新になります。7ヶ月前の前回の記事更新時はまだ緊急事態宣言の発令期間であり、毎年当たり前にあるNPBの公式戦開催すら疑問視されていましたね。それを考えると、6月19日の開幕から先週終わった日本シリーズまで公式戦720試合とポストシーズン6試合を無事こなせたということは、ファンとしても本当に感慨深いものがあります。今年も心を動かされるたくさんの試合を見せていただき、NPBの運営に関わられた方々全員に感謝したいです。

今シーズンは開幕まで約3ヶ月待っていた分、よりプロ野球観戦を楽しみ、好きになれた気がします。新型コロナウイルスの脅威にさらされた状況は来シーズン以降も続きそうですが、この一年の経験を糧にして、より一層盛り上がっていってほしいですね。

今回は、以前まとめた(下記記事参照)赤星式盗塁の2020年のランキングとその他盗塁関連のデータまとめになります。"盗塁を考慮したOPS"などのネタ指標もありますので、どうぞご一読を。

※最新版の通算ランキング等は『データ保管室』からどうぞ。

baseball-datajumble.hatenablog.com

 

1. 2020年のセ・パ赤星式盗塁ランキングと歴代通算記録

一応、赤星式盗塁についてご存知では無い方向けに簡単な説明を・・・。

赤星式盗塁とは・・・

「いくら盗塁が多くても、それが盗塁死の倍と等しいなら価値はゼロ、下回るならマイナス」

という元阪神・赤星憲広氏の発言に基づく指標で、以下の式で表される

 

 赤星式盗塁(ASB)=盗塁-盗塁死×2

詳しくは調べるか、時間があれば上記の昨年の記事も読んでみて下さい。ではさっそく今年の赤星式盗塁ランキングを見てみましょう!

※以下表の年齢は2020-生まれ年、SB%は盗塁成功率

セ・リーグ赤星式盗塁(10盗塁以上)

順位 選手 チーム 年齢 ASB 盗塁 盗塁死 SB%
1 近本 光司 26 15 31 8 0.795
2 堂林 翔太 29 9 17 4 0.810
2 塩見 泰隆 27 9 13 2 0.867
4 松原 聖弥 25 8 12 2 0.857
5 増田 大輝 27 7 23 8 0.742
6 吉川 尚輝 25 5 11 3 0.786
7 村上 宗隆 20 1 11 5 0.688
8 大島 洋平 35 0 16 8 0.667
9 梶谷 隆幸 De 32 -2 14 8 0.636

まずセ・リーグは、阪神の近本光司選手が二年目で初の赤星式盗塁王を獲得しました。近本選手といえば、昨年はルーキーで盗塁王に輝きながら、盗塁成功率の悪さ(36盗塁15盗塁死で成功率.706)がしばしば指摘されていました。しかし、そんな昨年も後半戦からは18盗塁5盗塁死、成功率.783と悪くなく、プロ入り当初の課題を解消して順調にレベルアップしていった結果ついてきた当然のタイトルと言えそうです。何より、初めてのオフがコロナ禍の長いオフで調整しづらかったにも関わらず、序盤のスランプを乗り越えてシーズン完走したということが本当に素晴らしいですね。今年も後半戦はさらに成功率を上げていて、決して現状で満足しないという意識の高さも感じさせられます。走攻守全てで魅せる近本選手に来年も注目です。

パ・リーグ赤星式盗塁(10盗塁以上)

順位 選手 チーム 年齢 ASB 盗塁 盗塁死 SB%
1 周東 佑京 24 38 50 6 0.893
2 西川 遥輝 28 28 42 7 0.857
3 和田 康士朗 21 17 23 3 0.885
4 佐野 皓大 24 12 20 4 0.833
5 荻野 貴司 35 11 19 4 0.826
6 C. スパンジェンバーグ  西 29 8 12 2 0.857
7 外崎 修汰 西 28 7 21 7 0.750
7 安達 了一 32 7 15 4 0.789
7 中島 卓也 29 7 11 2 0.846
10 福田 周平 28 3 13 5 0.722
11 源田 壮亮 西 27 2 18 8 0.692
12 辰己 涼介 24 1 11 5 0.688
13 小深田 大翔 25 -1 17 9 0.654
14 金子 侑司 西 30 -4 14 9 0.609

続いてパ・リーグはNPB記録の13試合連続盗塁、球団記録の月間23盗塁と記録ずくめだったソフトバンクの周東佑京選手が初の赤星式盗塁王に。記録に現れているように終盤の盗塁ペースは近年随一のもので、9月18日のレギュラー定着以降は42試合で32盗塁と走りに走りまくりました。昨年も支配下初年度で25盗塁、成功率.833とポテンシャルも見せていたものの、初盗塁が31試合目だったことや8月までの成績を考えると、物凄い成長速度ではないでしょうか。例年より20試合以上少なく、日程もタイトな今季に50盗塁を達成したというのも新たなスピードスターの時代の幕開けを感じさせられます。

赤星式盗塁シーズン記録(35ASB以上)

順位 ASB 盗塁 盗塁死 シーズン 選手 チーム 年齢 試合 ASB/G
1 63 95 16 1973 福本 豊 阪急 26 123 0.512
2 62 78 8 1950 木塚 忠助 南海 26 116 0.534
3 56 106 25 1972 福本 豊 阪急 25 122 0.459
4 54 72 9 1964 広瀬 叔功 南海 28 141 0.383
5 48 94 23 1974 福本 豊 阪急 27 129 0.372
5 48 74 13 1950 金山 次郎 松竹 28 137 0.350
7 47 61 7 1950 宮崎 剛 大洋 32 139 0.338
8 45 75 15 1970 福本 豊 阪急 23 127 0.354
9 44 76 16 1983 松本 匡史 巨人 29 125 0.352
9 44 70 13 1967 柴田 勲 巨人 23 126 0.349
9 44 54 5 1943 呉 昌征 巨人 27 84 0.524
12 41 61 10 2003 赤星 憲広 阪神 27 140 0.293
12 41 55 7 1951 木塚 忠助 南海 27 104 0.394
12 41 55 7 1988 西村 徳文 ロッテ 28 130 0.315
15 40 64 12 2004 赤星 憲広 阪神 28 138 0.290
15 40 44 2 1968 広瀬 叔功 南海 32 121 0.331
17 39 67 14 1971 福本 豊 阪急 24 117 0.333
17 39 63 12 1975 福本 豊 阪急 28 130 0.300
19 38 66 14 1948 河西 俊雄 南海 28 138 0.275
19 38 56 9 1957 河野 旭輝 阪急 22 123 0.309
19 38 50 6 2020 周東 佑京 ソフトバンク 24 103 0.369
19 38 44 3 2018 西川 遥輝 日本ハム 26 140 0.271
23 37 73 18 1985 高橋 慶彦 広島 28 130 0.285
24 36 60 12 2005 赤星 憲広 阪神 29 145 0.248
24 36 56 10 1943 山田 伝 阪急 29 83 0.434
24 36 52 8 1951 土屋 五郎 国鉄 27 75 0.480
24 36 50 7 1968 阪本 敏三 阪急 25 130 0.277
28 35 71 18 1954 鈴木 武 近鉄 22 132 0.265
28 35 61 13 1977 福本 豊 阪急 30 130 0.269
28 35 61 13 1982 松本 匡史 巨人 28 113 0.310
28 35 59 12 2010 片岡 易之 西武 27 137 0.255

今季の周東選手の赤星式盗塁は歴代で見ても多く、143試合制であれば赤星氏の記録を超えていたのではないかと思えるほどでした。表右の一試合ごとの赤星式盗塁(ASB/G)も現代野球では考えられないほどの数字を出しています。今シーズン終盤の打撃が一年通して維持できれば、最低でもトップ10入りは期待できるのではないでしょうか。アンタッチャブルレコード扱いになっている福本さんの記録超えもひょっとしたらあるのでは?と少しでも思えるのが凄いですね

ただレギュラーとして働いたのはまだ50試合程度ですし、一年間怪我せず出塁し続けることは簡単なことではありません。来季はより一層研究されると思いますし、当然スタメンが確約されているという立場でもないでしょう。しかしまだ十分に若いので、足以外の面でも安定した武器を身に付けて、成長していってほしいですね。そうすれば、全野球ファンが驚くような記録を作る日もそう遠くではないはずです。

歴代日米通算赤星式盗塁トップ20(150盗塁以上)

順位 選手 ASB 盗塁 盗塁死 SB% 初年度 終年度 所属
1 福本 豊 467 1065 299 0.781 1969 1988 阪急
2 イチロー 408 708 150 0.825 1992 2019 オリックス-SEA-NYY-MIA-SEA
3 広瀬 叔功 350 596 123 0.829 1955 1977 南海
4 松井 稼頭央 269 465 98 0.826 1994 2018 西武-NYM-COL-HOU-楽天-西武
5 木塚 忠助 251 479 114 0.808 1948 1959 南海-近鉄
6 赤星 憲広 205 381 88 0.812 2001 2009 阪神
7 西川 遥輝 197 287 45 0.864 2011 現役 日本ハム
8 柴田 勲 193 579 193 0.750 1962 1981 巨人
9 呉 昌征 159 321 81 0.799 1937 1957 巨人-阪神-毎日
10 金山 次郎 154 456 151 0.751 1943 1957 名古屋軍-産業軍-中部日本-急映-大映-松竹-広島
11 大石 大二郎 153 415 131 0.760 1981 1997 近鉄
12 荒木 雅博 150 378 114 0.768 1996 2018 中日
13 西村 徳文 149 363 107 0.772 1982 1997 ロッテ
14 荻野 貴司 138 220 41 0.843 2010 現役 ロッテ
15 松本 匡史 136 342 103 0.769 1977 1987 巨人
16 鈴木 尚広 134 228 47 0.829 1997 2016 巨人
17 片岡 治大 132 320 94 0.773 2005 2017 西武-巨人
18 本多 雄一 128 342 107 0.762 2006 2018 ソフトバンク
19 糸井 嘉男 127 299 86 0.777 2004 現役 日本ハム-オリックス-阪神
20 山田 哲人 120 176 28 0.863 2011 現役 ヤクルト
注) 盗塁死が公表されるようになった1942年からの記録

通算記録では、昨季の不調から復活した日本ハムの西川遥輝選手が柴田勲氏を抜いて7位に浮上しています。赤星氏の通算記録や300盗塁も間近で、盗塁という記録を語る上で欠かせない選手になっています。今オフの去就が注目されていますが、西川選手の安定した高い出塁能力があればもっと上の記録も狙えると思いますし、良い決断をしてほしいですね

 

2. 2020年のチーム赤星式盗塁ランキングと過去7年間のリーグ盗塁数推移

2020チーム赤星式盗塁

順位 チーム ASB 盗塁 盗塁死 SB% 昨年比 wSB
1 ソフトバンク 35 99 32 0.756 +0.187 +2.1
2 日本ハム 34 80 23 0.777 +0.297 +2.7
3 ロッテ 23 87 32 0.731 +0.157 +0.4
4 オリックス 17 95 39 0.709 +0.114 -1.0
5 阪神 14 80 33 0.708 -0.079 +2.2
5 巨人 14 80 33 0.708 -0.184 +2.2
7 楽天 7 67 30 0.691 +0.254 -1.6
8 西武 5 85 40 0.680 -0.210 -2.7
9 DeNA 1 31 15 0.674 +0.092 +0.1
10 広島 -4 64 34 0.653 +0.002 -0.8
11 ヤクルト -8 74 41 0.643 -0.151 -1.8
12 中日 -11 33 22 0.600 -0.057 -1.9

次はチームごとの赤星式盗塁ランキングを見ていきます。上位のチームは赤星式盗塁上位の選手を抱えるチームが並んでおり、そういった選手たちが戦術面でもたらすアドバンテージの大きさが感じ取れます。一方、赤星式盗塁がマイナスに終わったチームは来季に向けて改善したいところです。特に近年下り坂傾向の中日は本拠地が広いこともあって盗塁死の重みが他球団よりも大きいと思うので、更なる躍進のためにも盗塁技術の向上を目指してほしいです。

また、この表の「昨年比」は一試合ごとの赤星式盗塁の上がり幅(下がり幅)を示しています。源田選手や金子選手が低調に終わった西武以外のパ・リーグのチームで昨年よりもこの数字が大幅に上がっているのが目立ちます。この中でも最も注目したいのは、聖澤選手が衰えた2013年以降、初めて赤星式盗塁がプラスでシーズンを終えた楽天です。20盗塁以上の選手はいませんが、今年は盗塁成功率が極端に悪い選手が少なく、チーム全体でそういう意識が統一されていたことが分かります。この点は三木監督及びコーチ陣の評価されていい部分ではないでしょうか。来年また監督が変わるのが心配ですが、今年改善された部分が引き継がれるようにしてほしいですね。

表の一番右のwSBweighted Stolen Base runs)は日本の野球データ分析会社DELTAが公開している盗塁による得点貢献を示すセイバーメトリクスの指標です(参照:wSB/glossary/1.02 - Essence of Baseball)。赤星式盗塁は簡易的な指標でありながら、このwSBとの相関が高いことも支持されている理由の一つです。昨年なんかは赤星式盗塁とwSBの順位が完全に一致しているほどでした。しかし、今年のように赤星式盗塁がプラスのオリックス、楽天、西武がwSBでは結構なマイナスとなっていることを見ると、wSBは単純に盗塁数の多さや成功率の高さだけで求められている訳ではないようです。私はセイバーメトリクスに疎いのでその原因までは分かりませんが、アウトカウントや打者のカウントなど盗塁に成功した場面も考慮しているとすれば納得がいく気がします。

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この節の最後に、過去7年間の一試合あたりの盗塁企図数と盗塁成功率の推移を見てみましょう。これを見ると、6年前の水準を維持しながら精度も上げてきているパ・リーグ、盗塁企図数自体が減少傾向のセ・リーグというところが見て取れると思います。投手のクイックや捕手の盗塁阻止の技術にどれだけ違いがあるか分からず、またDeNAのようにそもそも盗塁をできる選手を揃えていないチームもあるので一概には言えませんが、盗塁という戦術の幅の面でリーグ間に温度差ができてきているのは否めません勿論盗塁死によるアウトの重みや盗塁企図による身体への負担を考えると、盗塁を重視しないという選択も立派な戦術の一つであり、理解できますしかし盗塁をしなくても、少しでもするかもしれないという意識を相手バッテリーに持たせることは大切ですし、ランナーとして常に先の塁を狙うという野球の基本的な部分にも繋がってきます。近年セイバーメトリクスでも盗塁や犠打といったある程度のリスクを負いながら走者を進塁させる戦術の価値が問われていますが、だからこそ一定の盗塁成功率を維持しながら多くの盗塁をこなす選手はその分評価されるような野球界であってほしいですね。

 

3. 二塁盗塁上位5選手の盗塁データまとめ

ここからは、今シーズン二塁盗塁が多かった5選手(ソフトバンク・周東佑京選手、日本ハム・西川遥輝選手、阪神・近本光司選手、ロッテ・和田康士朗選手、巨人・増田大輝選手)について私が集めた少しマニアックなデータを見ていきます。まずは、ランナー一塁または一三塁の場面での二塁盗塁の企図率や二塁盗塁成功時の出塁要因のデータです。下の表の「機会」は盗塁機会のことで、出塁(代走起用も含む)後に二塁が空いており、なおかつ盗塁する機会があった回数を示しています(次打者の打席でバットに触れない投球が1球でもあれば1カウント:初球ゴロなどで進塁した場合はノーカウント)。この機会で二塁盗塁企図数(=二盗+二盗死)を割ったものが企図率で、どれくらいの頻度で盗塁を企図していたかを表しています。

二塁盗塁が多かった選手の企図率と出塁要因(2020年)

選手 チーム 二盗 二盗死 機会 企図率 成功時出塁要因 牽制死
単打 四死球 凡打 代走
周東 佑京 H 48 6 81 0.667 29 13 5 1 0
西川 遥輝 F 42 7 107 0.458 27 15 0 0 2
近本 光司 T 28 7 97 0.361 19 5 3 1 1
和田 康士朗 M 23 3 41 0.634 6 2 0 15 2
増田 大輝 G 21 7 45 0.622 0 3 1 17 0

盗塁機会と企図率を見ると、少ない出塁で非常に多くの盗塁をこなしていた今季の周東選手の異常さが分かると思います。特に企図率は代走起用の多かった和田選手や増田選手よりさらに高い数値をマークしており、後半戦の飛躍が育成選手出身で代走屋として始まった周東選手ならではのものであったことが窺えます。さらに出塁要因を見ると、12回の代走起用のうち代走盗塁は1回のみで自力出塁での盗塁がほとんどだったことが分かります。「盗塁の極意は出塁すること」と度々仰っている福本さんも今季の周東選手の飛躍は嬉しかったでしょうね

 次はもっと限定して、ランナー一塁の場面のみでの二塁盗塁のデータです。まず最初は、アウトカウント別のデータになります。

 下の表の赤字の得点確率というのは、ある状況(ここでは◯アウト一塁)において得点を1点以上取れる確率の2004~2013年シーズンでのデータです(参考:勝てる野球の統計学――セイバーメトリクス (岩波科学ライブラリー) | 鳥越 規央, データスタジアム野球事業部)。今年のデータが取れていたら良かったのですが、ちょっと無理だったので過去のデータを参考にしています。

また、SBR%というのは盗塁企図数に対する得点率を表したもので、以下の式で表されます。ここでは仮に、盗塁得点率とも呼ぶことにします。

 

盗塁得点率(SBR%) = 盗塁/(盗塁+盗塁死)× 得点/盗塁 = 得点/盗塁企図

 

これは要するに二塁盗塁を企図した後の得点割合なので、各選手が各状況で二塁盗塁企図を行った場合の得点確率みたいなものになっています。

ランナー一塁での二塁盗塁(アウトカウント別)

状況 0アウト一塁(得点確率≒0.406 1アウト一塁(得点確率≒0.260 2アウト一塁(得点確率≒0.120
選手 チーム 二盗 二盗死 得点 SBR% 二盗 二盗死 得点 SBR% 二盗 二盗死 得点 SBR%
周東 佑京 H 11 2 6 0.462 19 1 9 0.450 15 2 3 0.176
西川 遥輝 F 13 2 9 0.600 9 4 1 0.077 14 1 2 0.133
近本 光司 T 5 1 4 0.667 8 4 4 0.333 6 2 2 0.250
和田 康士朗 M 6 1 4 0.571 7 2 1 0.111 6 0 1 0.167
増田 大輝 G 11 3 7 0.500 6 3 5 0.556 2 1 0 0.000

 盗塁前の得点確率からSBR%が上がった場合は赤でハイライトしてあります。これを見ると、「1アウト一塁」の場面での西川選手、和田選手は盗塁後の得点が少なくSBR%が良くないですが、それ以外はどの場面でも十分に価値のある盗塁ができていることが分かります。特に最も得点確率が高く盗塁失敗のリスクが高い「0アウト一塁」の場面では5選手とも良いSBR%を出しています。失敗をなるべく少なくするというのは絶対条件ですが、場面を選べば二塁への盗塁が非常に有効な作戦であることを示すデータになっていると思います。

続いてランナー一塁の場面で、さらに対戦相手との点差が1点差以内の僅差の場面でのイニング別盗塁です。

ランナー一塁かつ僅差(1点差以内)の場面でのイニング別二塁盗塁

イニング 1-3回 4-6回 7-10回 合計
選手 チーム 二盗 二盗死 得点 二盗 二盗死 得点 二盗 二盗死 得点 二盗 二盗死 得点 SBR%
周東 佑京 H 20 1 7 5 0 3 4 2 1 29 3 11 0.344
西川 遥輝 F 11 1 8 4 2 0 3 0 1 18 3 9 0.429
近本 光司 T 7 3 3 3 0 3 2 0 0 12 3 6 0.400
和田 康士朗 M 2 0 2 4 0 3 8 0 1 14 0 6 0.429
増田 大輝 G 2 0 1 1 1 1 11 4 6 14 5 8 0.421

一番打者起用の多かった選手は序盤に盗塁が多く、中盤から終盤にかけては僅差では無理に盗塁を試みていないことが分かります。やはり、その辺はリスクを考えて盗塁をさせない指示が出ている場面が多いということでしょうか。それを考えると、終盤で起用されて盗塁と本塁生還を求められる俊足選手の盗塁が凄く重く感じます僅差の場面での盗塁死が無い和田選手、終盤かなりの割合で本塁に生還している増田選手は代走選手として十分な役割を果たしていると言えるでしょう。

この節の最後に、盗塁した時の打者の成績はどうなっているのか興味があったので、ランナー一塁の場面で二塁盗塁を決めた早さとその時打席に立っていた打者の打撃成績を示すデータを調べてみました。「球数平均」は出塁からスタートまでにかかった投手の球数の平均値で、スタートの早さを示します。また、「sbHIP」は盗塁を決めた後の本塁生還率、「nextAVG」、「nextOBP」は盗塁を決めたとき打席に立っていた打者のその打席での打率、出塁率になっており、スタートまでの球数が早かった(1-2球)打席と遅かった(3球以上)打席で分けて出しています。

ランナー一塁で二塁盗塁成功時のスタート平均球数と次打者の打撃成績

選手 チーム 二盗 球数平均 1-2球目 3球目以上
打席 sbHIP nextAVG nextOBP 犠打 打席 sbHIP nextAVG nextOBP 犠打
周東 佑京 H 45 2.44 30 0.467 0.158 0.550 2 15 0.267 0.167 0.333 0
西川 遥輝 F 36 3.06 22 0.364 0.000 0.400 1 14 0.357 0.000 0.357 0
近本 光司 T 19 3.74 6 0.500 0.000 0.667 1 12 0.583 0.111 0.333 0
和田 康士朗 M 19 3.00 11 0.364 0.286 0.429 3 8 0.250 0.143 0.250 0
増田 大輝 G 19 2.95 11 0.636 0.100 0.375 0 6 0.625 0.250 0.250 0

盗塁数を考えると、周東選手のスタートがずば抜けて早いことが分かります。打者のカウントも半分以上がボール先行の状態で走っているので、打席に立っている打者としても相当に有り難いのではないでしょうか。一方、近本選手は盗塁を決めた後の生還率は高いのですが、他の選手と比べると少しスタートが遅めになる傾向があります。本人も「常に走ってくる印象は与えられなかった(⇒参照記事)」と言っているので、その辺が来季に向けた課題になってくるのかもしれません。

そして気になるのが、全体的に盗塁時に打席に立っている打者の打率がかなり低いことです。アウトカウントに関わらず俊足の選手が二塁にいればワンヒットで得点が入るのですが、ランナー一塁での二塁盗塁時に打席に立っている打者がそのままタイムリーを打ったパターンはこの5人の138回の二塁盗塁の中で3回しかありませんでした。その一方で、打率に対する出塁率は非常に高く、意図的に四球を選びにいっているように見えます。打線を組む側としても、ボールを見て「待てる」タイプの打者を次に置くケースが多いということでしょう。とはいえ、カウントが進んだ状況ではありますが、ワンヒットで得点できる場面でここまでヒッティングにいかないのはなぜでしょうかその答えは、四死球を勝ち取った後の得点確率、得点期待値を見ると何となく見えてきます

以下の表は今回取り上げた5選手のランナー一塁での二塁盗塁成功後における次打者の打席結果とその後の得点確率、得点期待値のデータです。ここで得点確率は前述したようにある状況において得点を1点以上取れる確率(得点/サンプル数)得点期待値ある状況からイニング終了までに入る得点数の平均値(後得点/サンプル数)になっています。

ランナー一塁で二塁盗塁後、次打者の打席結果による得点確率と得点期待値

次打者結果 ランナー状況 サンプル数 得点確率 得点期待値 得点 後得点
凡打 二塁 72 0.222 0.375 16 27
進塁打 三塁 14 0.571 1.143 8 16
犠打 三塁 7 0.857 1.286 6 9
四死球 一二塁 32 0.688 1.344 22 43
単打 一三塁 10 0.600 0.900 6 9

直感的には単打でチャンスを拡げた方が流れが来そうに思うのですが、四死球や犠打の方が得点確率、得点期待値ともに高くなっています。単打の後の得点期待値がそれほどではないのを見るに、ヒットでためたランナーは(ゾーンには制球できているのですから)案外割り切りやすいのかもしれません。更に二塁から三塁へ走者を送る犠打の成功率も考えると、二塁盗塁後に四球を選ばれることによる相手の(心理的な?)ダメージの大きさが分かると思います。僅差で二塁に盗塁された後にピッチャーのボールがストライクゾーンに入らなくなってきたら覚悟を決めた方が良いかもしれません。

 以上のデータから、少なくとも今季のこの5選手が所属したチームにおいては、盗塁してランナー二塁になったら不用意に打たずに四球を選びに行くという意識付けがなされているのではないかということが窺えます。どんなに良い走者でも、どうしてもカウントが進んでしまうという事実とヒットを打つためのエネルギーを天秤にかけて、よりチームに貢献するため、カウントが進んだ状態の打席を良い結果にしようとする次打者の試行錯誤が垣間見えますね。皆さんも来季は盗塁後の打者の打席にも注目してみて下さい。

 

4. 赤星式盗塁を考慮したOPS

最後に、高い成功率で多くの盗塁を決める選手を何とか既存の指標に近いものを使って評価したいと思い、新たなネタ指標として(赤星式)盗塁を考慮したOPS(asbOPS)を考えてみたので紹介します。式としては、以下のように従来のOPSの長打率(=塁打/打数)の部分に赤星式盗塁代走起用数を組み合わせたものになっています。

 

赤星式盗塁を考慮したOPS(asbOPS)= 出塁率 + (塁打+赤星式盗塁)/(打数+代走起用数)

 

長打率の項の分子に赤星式盗塁を加えているので、盗塁成功率が.667を超える選手はその分塁打数に加算され、そうでない選手は塁打数からマイナスされるようになっています。また、代走起用数を分母に加えることで、赤星式盗塁が多く打数の少ない選手が得をしないようにしています。盗塁死がマイナス2倍される赤星式盗塁でなく、盗塁死を盗塁から引くだけで良いではないかとの意見もあるかもしれませんが、それだと盗塁が上手くない選手のプラス補正が大きくなってしまうので赤星式盗塁の方を採用しました。

これだけではどういうものか分からないと思うので、実例を見てみましょう。今シーズンの10盗塁以上の選手のOPSとasbOPSは以下のようになっています。「順位」は両リーグ300打席以上の打者の中でのOPSの順位、「増減」はasbOPSとOPSの差、「Rank」は両リーグ300打席以上の打者の中でのasbOPSの順位です。

盗塁を考慮したOPS

順位 選手 盗 塁 盗塁死 ASB 代走 OPS asbOPS 増減 Rank
2 村上 宗隆 11 5 1 0 1.012 1.014 +0.002 2→
11 梶谷 隆幸 14 8 -2 0 0.913 0.909 -0.005 11→
- 塩見 泰隆 13 2 9 0 0.856 0.915 +0.058 -
17 西川 遥輝 42 7 28 0 0.825 0.892 +0.066 14↑
- 増田 大輝 23 8 7 48 0.810 0.694 -0.116 -
20 C. スパンジェンバーグ 12 2 8 0 0.807 0.827 +0.020 18↑
29 堂林 翔太 17 4 9 0 0.787 0.809 +0.022 21↑
32 大島 洋平 16 8 0 0 0.763 0.763 ±0.000 35↓
34 近本 光司 31 8 15 2 0.759 0.789 +0.030 29↑
- 荻野 貴司 19 4 11 0 0.759 0.813 +0.054 -
40 小深田 大翔 17 9 -1 10 0.745 0.732 -0.012 45↓
42 吉川 尚輝 11 3 5 2 0.734 0.746 +0.012 41↑
52 安達 了一 15 4 7 0 0.713 0.740 +0.026 42↑
56 松原 聖弥 12 2 8 2 0.701 0.727 +0.026 46↑
57 福田 周平 13 5 3 1 0.700 0.711 +0.010 53↑
60 外崎 修汰 21 7 7 0 0.688 0.704 +0.016 58↑
61 周東 佑京 50 6 38 12 0.677 0.783 +0.106 30↑
- 辰己 涼介 11 5 1 14 0.664 0.648 -0.016 -
67 源田 壮亮 18 8 2 0 0.656 0.661 +0.004 65↑
73 金子 侑司 14 9 -4 0 0.615 0.601 -0.013 72↑
- 佐野 皓大 20 4 12 27 0.555 0.579 +0.025 -
- 中島 卓也 11 2 7 13 0.531 0.554 +0.023 -
- 和田 康士朗 23 3 17 43 0.508 0.582 +0.074 -

順位が付いている300打席以上の打者で見ると、周東選手、西川選手、近本選手に加え、オリックス・安達了一選手、巨人・松原聖弥選手、広島・堂林翔太選手、西武・スパンジェンバーグ選手あたりがasbOPSによって評価されるようになっています。特に周東選手は率にして1割以上、順位にして30位以上上がっており、.352から.458まで上昇した長打率だけを見ると、なんと阪神・サンズ選手や西武・山川選手より大きい数値になっています。盗塁時に次打者のカウントが進んでしまうことを考えると適正な評価ではないかもしれませんが今季の周東選手が全出塁数の約半分にもなる50回の出塁機会で得点確率のより高い状況にして次の打者に繋いだことは十分評価されてよいことですし、盗塁死のマイナスも反映した"塁打数"として打撃評価に含めるのも悪くはないのではないかと思います

一方で、巨人の増田選手のようにあまり打席に立っていない選手が代走起用で盗塁死を多くしてしまうとasbOPSはその分低くなってしまいます。代走起用されるとそれだけで1打数無安打、盗塁成功してやっと1打数1単打と同じ扱いなので、代走起用の多い選手には少しシビアかもしれませんが、打者として自分で出塁して盗塁に成功した選手がその分評価される点では良いのではないかと思います。増田選手も最後の3連続盗塁失敗が無ければこんなに悪くはならなかったので、しっかり怪我を直して来年こそポストシーズンで活躍してほしいですね。

 

5. 終わりに

長くなりましたが、以上、今シーズンの赤星式盗塁ランキングと盗塁について私があれこれ考えたことのまとめでした。HTMLで表を作ったので、スマホやタブレットからは見にくかったかもしれませんが、この記事を読んで盗塁の奥深さや野球の面白さを知っていただけたなら嬉しいです。

野球は好きなのでこのブログ自体は続けていきたいとは思っていますが、モチベーションの問題もあってそんなに頻繁には更新できないと思います。この記事のような年次記事についてはなるべく書いていきたいと思うので、たまに思い出した時で良いので立ち寄ってみて下さい。それではまた。

 

6. 参考サイト

プロ野球 - スポーツナビ

NPB.jp 日本野球機構

- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 2020年度版

1.02 - Essence of Baseball | DELTA Inc.