オープン戦ではホームランが飛び交ってますね!甲子園の逆方向に既に3発放った虎の黄金ルーキー・佐藤輝明選手を始め、日本ハムの野村祐希選手、ヤクルトの濱田太貴選手、オリックスの頓宮裕真選手ら期待の若手スラッガーが本塁打王を争っており、新時代の到来を予感させる球春となっています。WHOによる新型コロナウイルスのパンデミック認定から一年が経過した今でも先の見えない不安に駆られる生活が続いていますが、ファンを笑顔にするホームランがたくさん出て、シーズン終盤には普通の球場観戦ができるような一年にしなければなりませんね。
今回は2021年の12球団戦力分析の第九回で、昨年セ・リーグ3位に終わった中日ドラゴンズの戦力分析になります。どうぞご一読を。
1. 2020年の総括
シーズン成績
昨年の中日は、采配ミスもあった序盤は苦しんだものの8月からは巻き返し、見事8年ぶりにAクラスに入りました。やはり7月末から大野雄大投手が毎試合のように完投して大エースの働きをしてくれたのが大きかったですね。得失点差がマイナスなこともあり、コロナ対策でCSが無かった中での"棚ぼた"的な好成績という風潮もありますが、僅差の試合を確実に拾う強いチームの戦い方を今の主力選手が経験できたことは、必ず今後に生きてくるでしょう。昨年頑張った選手の年俸も軒並み上がり、次の年へ向けて選手とフロントの信頼関係を修復できたという意味でもここ数年で最も充実したシーズンでした。
投手成績
先発陣は、防御率、奪三振、投球回、完投、完封、WHIPなどでリーグトップとなる大活躍で沢村賞に輝いた大野雄大投手の独壇場でした。対抗馬の菅野投手には勝利数と勝率で及ばなかったものの、先述したように国内FA権を取得した7月31日以降の14試合で11勝2敗、防御率1.12、完投率71.4%という沢村栄治感の強い成績を残したことのインパクトが大きかったですね。完投以外の積み重ね系の成績は歴代の沢村賞投手と比べると物足りませんが、昨シーズンは例年の日程より6週間近く短い期間であったことや、コロナ禍のシーズンを戦い抜いた選手達を讃えることの意義を考えても最高位の賞を誰がしかに与えたという選考委員の方々の判断は非常に良かったと思います。少し脱線しましたが、他の投手でも先発に転向して復活を遂げた福谷浩司投手も7月末から安定したピッチングでローテを支えてくれました。他にも勝野昌慶投手や松葉貴大投手は一定の役割を果たしてくれましたが、昨年170イニングを投げた柳裕也投手は故障離脱もあって十分な成績を残せませんでしたし、福谷投手も含めて一年で計算できる先発投手は今年も揃えられていなかったという印象です。落合監督が退任して以降、複数回以上規定に達した投手は大野投手のみであり、複数年ローテを回したと呼べる生え抜き投手も小笠原慎之介投手と柳投手、若松駿太投手(現独立・福島レッドホープス、2018年に自由契約)ぐらいという厳しい状況には変わりないので、もう一度優勝を目指すチームになるためにドラフト、育成、外国人スカウト全ての面での抜本的な改革が必要です。
一方で救援陣は一登板あたりのホールドポイントとセーブの合計がリーグ1位と奮闘しました。救援陣全体の防御率は4.33と良くなかったのですが、最優秀中継ぎを獲得した祖父江大輔投手や福敬登投手、7月中旬からクローザーとして非常に安定していたR. マルティネス投手、ベテランの谷元圭介投手ら勝ちパターンの投手が要所で自分の役割を果たし続けてくれたのが素晴らしかったです。ここ2年振るわなかった又吉克樹投手の復調も大きかったですね。データとしても得失点差が3点以内の僅差の試合で21の貯金を作っており、先発が作った試合を勝ちに繋げる堅実な戦い方ができていました。
全体としては一軍レベルの投手とそうでない選手の差が激しく、一部の投手に負担が偏っている傾向が見て取れます。打底球場が本拠地とはいえビジターの平均失点がリーグ最下位なのも気になりますし、どんな環境でも一定の結果を残せる高い能力を持った投手の育成やスカウティングが肝要になってきています。
打撃成績
打撃陣は得点、本塁打、OPSでリーグ最下位と非常に苦しみました。主砲のビシエド選手や5度目の規定3割を達成した大島洋平選手に加え、京田陽太選手、高橋周平選手、阿部寿樹選手の内野陣が攻守にレギュラーとしてある程度計算できるようになってきたのは良い点ですが、他の打者が不甲斐ない為にこれらの打者を活かしきれていません。福田永将選手、アルモンテ選手、平田良介選手のレギュラー格の選手が故障がちでまともに計算できないのは痛かったですが、この3人の状態や選手としての特徴は昨年以前から分かっていたはずなので、そこで代わりの選手の獲得に乗り出さないフロントの危機管理能力の低さも感じる一年でした。昨年支配下登録されて打撃で光るものを見せたA. マルティネス選手にしても、正捕手に定着した木下拓哉選手やビシエド選手とポジションが被っていますし、外国人補強の面でも現場とフロントで温度差が出てきているようにも思えます。この辺は、外国人補強部門を統括していた森繁和氏が退任した影響もあるのでしょうか。
途中出場の控え選手のOPSもリーグで唯一5割台に留まっており、終盤の代打攻勢が重要になってくるセ・リーグで大きく遅れを取っている状態です。ベテランの大島選手しかいない外野手の層の薄さは特に深刻ですし、将来的な球場ビジネスに対応するためにも球場の広さに物怖じしないスケールの大きい打者の台頭が求められています。
2. 打順分析と相性分析
この節では毎回、少し変わった視点から見た2つのデータを見ていきます。
打順分析
一つ目は打順分析です。出塁率(OBP)と長打率(SLG)に加え、選手の得点貢献度を示すHPRP( 得点関与数[得点 + 打点 - 本塁打]/打席)を各打順ごとの平均と比較することで、リーグの平均的な打線と比べて、代打も含めて各打順にどのようなタイプの打者が置かれ、どのような仕事をしていたかを見ていきます(HPRPを使った経緯は以前の記事参照)。なお、このデータは簡単にパークファクターも反映したものになっています。
打順下の選手名はその打順にスタメンで置かれた上位2選手(8割以上スタメンで出ている場合はその1選手のみ表示)になっています。OBPgap(青棒)、SLGgap(橙棒)、HPRPgap(灰棒)は各打順における各指標のリーグ平均との差を示しています。
指標的にも全体的にマイナスが多く、得点創出能力の悪さが浮き彫りになるデータになっています。特に長打率の低さが顕著で、今の主力選手全体に"ナゴヤドームアレルギー"が蔓延していることが窺えます。ビジターでの得点力も低いので、ナゴヤドームで結果を出す為に変えたスタイルがシーズンの半分を占める他球場で通用しないという悪循環に陥りつつあるようにも見えます。大島選手とビシエド選手頼りの上位打線も限界があるので、高橋周平選手、阿部選手ら能力のある中堅主力陣の更なる奮起やそれを支える新しい打者の補強や育成が急務です。
相性分析
もう一つのデータは対戦チームごとの相性分析になります。私が作った指標も使っているので、表で使っている各指標について補足説明をしておきます。
QS% : 先発投手のクオリティスタート(6回以上投げて自責点3点以下)試合の割合
QSP : QS試合における貯金;左横のW、L、DはQS試合における勝敗を示す
QR/G : 一試合あたりのクオリティリリーフ* ; 救援投手のリリーフ精度を示す
※ クオリティリリーフ[QR]とは、以前の記事でまとめた救援投手の"リリーフ成功率"を反映した指標で、成功率が80%を超えるとプラス、下回るとマイナスになるようになっている
aQS% : 相手先発投手からの被QS回避率 ; 打線が相手先発投手をどれだけ攻略できたかを示す
aQSP : 相手先発投手からの被QS回避試合における貯金;左横のW、L、Dは被QS回避試合における勝敗を示す
aQR/G : 相手救援投手からの被クオリティリリーフ回避の試合平均 ; 相手救援投手のQRに-1をかけた数値になっている ; 打線が僅差の展開で相手救援投手をどれだけ打っているかを示す
SBI/G : 自チームの一試合あたりの赤星式盗塁*から相手野手の一試合あたりの赤星式盗塁*を引いた数値 ; 攻撃時の野手の盗塁技術と守備時の盗塁阻止技術を併せた指標
※ 赤星式盗塁 = 盗塁 - 盗塁死 × 2
aEI/G : 相手野手の一試合あたりの失策数と失策による失点*の合計値から自チーム野手の一試合あたりの失策数と失策による失点*の合計値を引いた数値 ; 守備力ではなく、エラー回避能力を示す
※失策による失点は、投手の失点から自責点を引いた数字
これらの指標を使って勝敗や得失点差に加え、投手や打線の各対戦チームに対する相性や盗塁、エラーの対戦チームごとの傾向を見ていきます。
平均よりある程度高いか(赤)、平均程度か(緑)、低いか(青)で色分けしています。近年の中日はBクラスには低迷しているものの特定球団を極端に苦手とする傾向はあまり無く、更に平均を大きく上回るQR/Gにも表れているように、ここ二年は一定の勝ちパターンを維持していることから、昨年のヤクルトやDeNAのように打線が仕事をした相手に対してはそのまま貯金が計算できるのが良い点と言えます。ただ裏を返せば普段は打線が投手陣を助けられていないということにもなるので、チーム全体で上を目指す為にも打撃陣の意識改革が不可欠です。春季キャンプ時に与田監督が課題に挙げた盗塁企図数の低さは改善点ではありますが、木下選手が束ねる盗塁抑止力の高いバッテリーのおかげでそこまで差し迫った弱点になっていないと思うので、守備面も含めた防御力の高さを活かすためにも長打を重視した攻め方を増やしていくことがAクラスを維持するための絶対条件になっていると言えるでしょう。
3. シーズンオフの選手の動きと新外国人分析
オフの選手の動き
昨オフは前エースの吉見一起投手が引退し、離脱が多くコストパフォーマンスの悪かったアルモンテ選手が退団しました。出場すればある程度の結果を出してくれるアルモンテ選手がいなくなるのは痛いですが、球団としても故障がちな主力が多い中で新しい風を吹かせる意味もある苦渋の選択だったのでしょう。アルモンテ選手はまだ31歳で力のある選手なので、KBOの環境にうまくハマって活躍してほしいですね。
そして新外国人としては、外野3ポジションが守れる左の長距離砲のマイク・ガーバー選手と救援左腕のランディ・ロサリオ投手を獲得しました。課題の主力外野手と勝ち継投を制約の多いキューバリーグ以外から補強できたのは、東京五輪を控える可能性もある今シーズンにおいて大きいですね。
またドラフト1位としては髙橋宏斗投手を単独指名し、地元のスター選手候補を3年連続で獲得した形になりました。即戦力候補としても森博人投手や三好大倫外野手を指名していますが、基本は下位や育成も高卒選手が中心で、これで4年連続で高卒選手を3人以上指名したことになります。再建期で未来の黄金期を見据えたドラフトにシフトしているのは良い傾向だと思うので、これらの選手がピークを迎える頃に力を存分に発揮できるような環境作りをしてほしいです。
なお、阪神を自由契約になった福留孝介選手が14年ぶりに中日に復帰しています。来月44歳とコーチ陣でも中堅層の年齢になりますが、野球ファン人気も非常に高い将来的な監督候補でもあると思うので、一軍でも二軍でも名選手としての生き様や考え方を未来を担う若手選手に伝授してほしいですね。
新外国人分析
この項では、今年からNPB入りとなる選手の過去の成績を見ていきます。中日が獲得した2選手は緊急事態宣言による入国規制のため未だ来日の目処が立っておらず、開幕にも間に合わないことが濃厚ですが、一応早いうちに一軍に合流する想定で分析します。
ガーバー選手は2019年に3Aで26本塁打を放ち、513打席でOPS.937をマークしたパワーと守備が魅力の左打ちの外野手です。特に中堅を中心に両翼も起用にこなせる守備力には定評があり、年齢も若いことからベテランの大島選手の負担を減らす意味では良い補強と言えるでしょう。一方で打撃面ではマイナーで30%前後、メジャーでは少ない打席数ながら50%前後を記録した三振率の高さに起因するコンタクト力の低さが課題で、苦手とする変化球の対応に苦しめば日本でも苦戦を強いられそうです。ただパウエル打撃コーチが推薦した選手でもあるので、早いうちに日本の野球に慣れて中日打線の救世主となる活躍に期待です。
ロサリオ投手は平均球速150km/h前後の速球と曲がりの大きいスライダーを軸に持ち味とする救援左腕です。球種の少なさから奪三振能力や制球面で突出したものは無いものの、ゴロ打球が多く内野守備に長ける中日に適した投手と言えそうです。ストレートの被打率が高いのが懸念点ですが、木下選手ら捕手陣とも積極的に意見交換して相手によって効果的な配球を組み立てて活躍してほしいですね。
4. 2021年の予想布陣
最後に今シーズンの予想布陣を見ていきましょう。 投手、野手ともに昨シーズンの成績と一軍実績や年齢、最近の二軍成績や記事をもとに、今年の陣容を考えてみました。実績があっても怪我や未入国のため計算できない選手もいるため、選手の背景色によって選手の状態(赤はほぼ異常なしと思われる選手、青は故障の影響が大きいと思われる選手、灰色は未合流の選手、緑はキャンプ開始時点で育成契約の選手)が分かるようにしています。年齢や怪我の状態を考慮して実績があっても載せていない選手もいますが、その点はご了承ください。
投手陣
※疲弊度は、以前の記事でまとめた昨シーズンの"勤続疲労"を示す指標で、登板間隔が短く投球数が多いほど大きくなります。
先発陣はエースの大野投手が軸になりますが、Aクラスを維持する為には2番手候補の福谷投手と柳投手もローテとして一年間役割を果たすことが求められます。上位チームに当てられる大野投手を助けられるような安定した成績を残して、3人の中から最多勝投手が出せるような三枚看板を形成してほしいですね。4番手以降は絶対的な投手はいませんが、昨年結果を出した勝野投手や松葉投手、4年目の清水達也投手、2年目の岡野祐一郎投手、6年目の小笠原慎之介投手らが候補になるでしょうか。中でも清水投手、岡野投手、小笠原投手の3人はここまで良い投球を見せており、境遇は違えど今季に懸ける思いも人一倍強いと思うので、ジャリエル・ロドリゲス投手や梅津晃大投手らライバル投手陣に出番を与えないぐらいのブレイクに大いに期待したいです。これらの若手投手が切磋琢磨して立派なローテ投手に成長すれば、再び常勝球団となる日もそう遠くにはならないはずです。
一方の救援陣は、調整遅れで開幕に間に合わないクローザーのR. マルティネス投手の代役が必要になります。と言っても昨季終盤も故障離脱でいなかったので、ここは経験のある祖父江投手や福投手、藤嶋健人投手らが起用に穴埋めしてくれるでしょう。ただ役割が変わることでチームバランスが崩れることは往々にしてあるので、抑え経験もある鈴木博志投手や5年目の木下雄介投手ら今年のブレイク候補がハマってくれると面白いです。彼らと復活した又吉投手や谷元投手、岡田俊哉投手が健在であれば、今年も中継ぎが原因で崩れる心配はそれほど無いと思います。お互いの負担を補い合いつつ、セーブとホールドのタイトル両獲りも視野に入れて今年も先発陣のQSを確実に勝利に繋いでほしいですね。
野手陣
野手陣は、昨年の成績をもとに3パターンの予想打線を組みました。パターンAが昨シーズンの最も良い時の打線をベースにした理想打線、パターンBが二年目のジンクスを考慮し、昨シーズンブレイクした選手を除いて実績や経験を重視した打線、パターンCが年齢や体調不良によるパフォーマンス低下を考慮し、若手を多く起用した打線になっています。
今年もリードオフマンの大島選手とポイントゲッターのビシエド選手を軸に打順を決めていくことになりますが、チームの将来の為には高橋周平選手、阿部選手、京田選手の中堅内野手陣がより打力を磨いて上位打線にも耐えうる安定感を身に付けなければならないシーズンになります。特に高橋周平選手は日本人選手で最も長打力が見込めるレギュラー野手なので、今の打撃スタイルの延長上にある長打をもっと増やせるように意識してチームを引っ張ってほしいです。阿部選手と二人で30本以上は期待したいですね。京田選手も有力な競争相手なしに迎える5年目のシーズンになりますが、文句の言われない結果を残して立浪臨時コーチらOBを満足させてほしいです。この3人が揃って成績を上げて、木下選手とA. マルティネス選手の打力のある捕手の併用体制が整えば、優勝争いも視野に入ってくるでしょう。
一方で、昨年の総括でも述べた通り大島選手以外信用の置ける選手がいない外野手が課題で、今年も長打力のある福田選手が昨季終盤の怪我を考慮した調整遅れでおらず、新加入のガーバー選手も未入国と開幕から層の薄さに悩まされる状態です。正右翼手の平田選手がいるのは幸いですが、離脱の心配もあるのでレギュラー陣に匹敵する打力を持った控え選手の台頭が欠かせません。井領雅貴選手や武田健吾選手ら中堅陣に加え、滝野要選手や根尾昴選手ら一軍経験の浅い若手陣やルーキーの全ての選手にチャンスがあると思うので、ガーバー選手に一打席も与えないくらいのつもりでレギュラーを掴みにいってほしいです。そして、体調さえ整えば一軍に抜擢されるであろう石川昴弥選手の活躍も注目です。まだ若いので急ぐ必要はないですが、ドラゴンズの未来を担うスラッガーとして素晴らしい初ホームランも期待したいですね。
5. 終わりに
以上、2021年の中日ドラゴンズの戦力分析でした。3年目になる与田監督ら首脳陣は昨年の3位という結果にとらわれずに現状をしっかり分析し、選手の長所を生かす采配が求められます。選手達も昨年経験できた勝ち方とそこから見える課題の両方をしっかり自分で消化して、確実にレベルアップする一年にしなければなりません。7年間の低迷期で染みついてしまったイメージを変える為にも、どの時代でも通用する勝利への定石を確立して10年ぶりの王座奪還を果たしてほしいですね。
少し更新ペースが落ちていますが、なんとかあと10日で残りの3球団も終わらせるつもりなので、残りの記事もどうかご一読を。次回は昨季セ・リーグ4位の横浜DeNAベイスターズの記事になります。それではまた。
6. 参考サイト
- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 2020年度版