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プロ野球の引き分けの歴史と2021年の救援投手関連指標まとめ

 久しぶりの更新になります。もうすぐプロ野球のキャンプが始まりますが、キャンプ前からオミクロン株で大騒ぎですね。新型コロナウイルスが流行し始めてから2年が経つというのに収束の気配が見えないのは嫌になりますが、ウイルス感染のニュースが当たり前になってきていることは少しずつ弱毒化への道を辿っていることの裏返しでもあるので、前向きに捉えていきたいところです。

 今回は昨シーズン"9回打ち切り"ルールを導入したことで非常に増えた引き分けについての記事です。昨年まとめた(下記記事)救援投手の"リリーフ成功率"の2021年版などオリジナル指標もまとめているので、どうぞご一読を。

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1. プロ野球と引き分けの歴史

 かなり遅いですが、まず最初に昨年のNPBについてざっくりと振り返ってみます。2021年のプロ野球はヤクルトの20年ぶりの日本一で幕を閉じました。シーズンでは高津監督ら首脳陣が先発投手の登板間隔を大幅に空ける斬新な起用法を最後まで続けて僅差で阪神に競り勝ったのは、野村ID野球を正統に引き継いだ感もあって新鮮でしたね。日本シリーズでは破れてしまいましたが、オリックスがパ・リーグを制したのも25年ぶりで、近年では見られない展開が見られて多くのプロ野球ファンにとって満足の一年だったように思います。日本一が決定した"ほっともっと"フィールド神戸での試合は極寒の中ではありましたが、何より8ヶ月の長丁場に及んだ143試合とポストシーズンをほぼ滞りなく行うことができたのが良かったですね。そして、開催にあたってはギリギリまで揉めていた東京五輪でも、野球では初の金メダルという悲願を達成することができました。稲葉監督以下首脳陣の采配面での問題もなく、最後の五輪野球で最短の試合数で最高の結果を得られたのは本当に素晴らしかったです。

 そんな昨年のNPBでしたが、最も例年と違っていたのが"9回打ち切り"を導入したことで増加した引き分けの多さです。特にセ・リーグでは首位ヤクルトと2位阪神の引き分けの差が大きく、話題になりましたね。1年で102試合という引き分け数は史上最多の数でしたが、延長規定に大きく影響される引き分けという記録には長い歴史があります。せっかくなので今回は、引き分けの歴史とともに2リーグ制以後の70年余りを振り返ってみましょう。

引き分け試合の割合で見るこの70年

 海の向こうのメジャーリーグには引き分けが無く、最後まで決着を付けることで有名ですが、NPBでは戦前の1リーグ制時代から引き分けが存在しました。NPBの前身である日本職業野球連盟が発足した1936年の時点で既に引き分けが制度化されており、5月5日の名古屋金鯱軍vs大東京軍(のちの松竹ロビンス)の試合でおそらく日本プロ野球初の引分試合が記録されています(7-7で延長10回打ち切り)。勝負事に白黒を"付けない"この制度の起源は分かりませんが、日本では戦前の黎明期から一つの試合にある程度の期限を設けて"喧嘩両成敗"とみなすような引き分けを公式に採用しています。

 当然ながら引分試合の数は延長試合を何回まで続けるかに大きく左右されます。東日本大震災後の2シーズンが記憶に新しいように、延長規定は国の節電対策と密接な関わりがあるため、その割合を見ると各時代を支配していた経済政策を窺い知ることもできます。

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 上のグラフは2リーグ制以後の引分試合の割合を示したものです。2リーグ制開始当初は延長12回までのイニング制限が設けられていましたが、1952年からはデーゲームでは日没まで、ナイターでは22時過ぎの一定の時刻まで(ダブルヘッダー一試合目は多くは12回まで)と延長規定を緩和したことで引分試合の割合が減少しています。日没までというのは一見おおざっぱにも見えますが、照明設備が無い球場が多かったことを考えての措置でしょうか。このルール変更によってデーゲームでは試合時間が延びたものの、1950年代から1960年代は(特にセで)かなりの打低時代であったため、ある程度の頻度で引き分けが発生しています。現在と比べると選手数も格段に少なく、選手の交代もあまり無かったこの時代は試合のテンポが早かったこともあり、長い時では20イニングに迫る攻防の結果、引き分けに終わったという試合も少なくありませんでした。1954年のパ・リーグ(首位西鉄と2位南海)、1964年のセ・リーグ(首位阪神と2位大洋)のように勝利数の近い2チームが引分試合の差で命運を分けるケースもあったせいか、引分試合を0.5勝0.5敗扱いとしたり、引分再試合制度を導入するなど、シーズンによってルールが小刻みに変化していた時期でもあり、NPBとしても引分試合の扱いについては昔から腐心していることが窺えます。
 その後の高度経済成長の煽りを受けた公害問題が顕在化してきた1970年代に入ると環境保全運動が盛んになり、風向きが変わります。有毒な排気ガスが大気汚染に大きく関わる火力発電に依存している日本の電力事業も例外ではなく、ナイターでの照明設備が欠かせないプロ野球界でも節電のため試合時間の短縮を強いられます。1971年にはパ・リーグで開始時刻に関わらず3時間20分の制限が設けられ、セ・リーグも翌年追随したことで引分試合の割合が一気に上昇していきます。更に1973年の第一次オイルショックによって当時の半分以上の電力量を占めていた石油の供給が滞ると節電政策が本格化し、試合時間は3時間ちょうどまでに短縮されます。この後も長く原油価格の高騰が続く中で石油依存を解消し、原子力や天然ガス、石炭など他の電源への転換を図る中で節電政策が長期化したことで、NPBでは1987年までの実に17年に渡って3時間ないしは3時間20分の時間制限を設けてシーズンが執り行われていました。この期間は引分試合の割合が6〜10%と高い水準で推移しており、3球団以上が2桁引分を記録することも全く珍しくありませんでした。この時期のプロ野球を見て育った世代の方は引き分けへの抵抗が比較的小さいのかもしれませんね。一方で1970年代後半から1980年代中盤にかけての打高傾向を見る限り、NPBとしては時間制限がある中でも何とかして決着を付けようとしていたところも窺えます。ボールの反発係数にも関わるところでグレーゾーンの話かもしれませんが、この時期の取り組みについて掘り下げていくと面白いかもしれません。

 1980年代に原子力発電が普及したこともあって電源の分散化が進められた平成初期になると延長規定は緩和され、徐々に現在浸透している12回制へとシフトしていきます。長く時間制限を導入していた反動か1990年代のセ・リーグでは延長15回制で引き分けた場合は再試合とする引分再試合制を本格導入しており、引分試合の割合がほぼ0%付近で推移しています。このことからもNPBとしては基本的にはMLBと同様にできるだけ引き分けを少なくしたいという考えが根底にあると言っていいでしょう。

 21世紀に入ってからは延長12回制が続いていましたが、2011年には東日本大震災での原発事故を受け、節電のため24年ぶりに3時間30分の時間制限が設けられました。2シーズン続いたこの"3時間半ルール"は同時期に極度の低反発球を導入したことで余計にイメージが悪くなっている感もありますが、色々な投手がいる中で時間で一試合の終わりを決めてしまうのは野球の面白さを削いでしまっているように思いますし、不満の声が多かったのも頷けます。ただ球史上最高レベルに打低かつ時間制限を設けていたこの2年間でも引分試合の割合はオイルショック期と同等の10%弱程度でした。

 一方、2020年から現在も続く新型コロナウイルス対策としてはこれまでの有事と異なり、延長規定を時間ではなく、10回までとイニングで定めたことで引分数が増加しました。終わりが定まっていることで投手交代がし易くなり、能力の高い勝ちパターンを躊躇いなく注ぎ込めることが引き分けが多くなった主な要因と言えるでしょうか。そして、初の"9回打ち切り"を導入して延長がなくなった2021年は外国人野手の入国規制に伴う打低傾向が重なったこともあり、10%に大きく超える過去最高の引分率を記録しています。シーズン前にこの制度の導入が発表された際からも引き分けの増加を危惧する声が多くありましたよね。その一方で、近年過度に負担が増している救援投手の疲労軽減やMLBの時間短縮化の流れにも合致することもあり、ここまで引き分けが多くなった割には"9回打ち切り"に関しては次第に受け入れられていっているような感じもあります。私もシーズンの途中あたりからそんなに悪くはないと思うようになりました。しかし、NPBとしては現在も引き分けは極力少なくしたい意向があるようで、2022年シーズンでは延長12回制に戻すことが先日発表されています。ただオミクロン株の流行に伴う日本での感染再拡大に北京冬季五輪、秋にはワールドカップと国際的なイベントを多く控える一年だけあって、これからもルール変更があることは覚悟しておいた方が良さそうです。

引き分けは必要?or不要?

 MLBでは伝統的に引き分けが無く、ここまで見てきたようにNPBにも引き分けをできるだけ少なくしたい考えがあることをここまで見てきました。では、一つの試合の勝敗を付けないという引き分けは今後も必要でしょうか?

 その答えは人によって様々だと思いますが、これまでの経緯を振り返ると自前のエネルギー資源に乏しく、世界有数の地震大国である日本ではある程度の期限を設けて引分試合を作っていく方が懸命のように思います。一方、引き分けの多さは野球観戦人気を損ねる可能性を多分に秘めているので、延長規定については十分な調整が必要です。今後も引き分けが多くなるならば、引分試合の扱いについても再度吟味しておいた方が良いでしょう。特にバッテリーの負担が増しており、ウエイトの大きい国際試合も多くなっている現代野球ではどんなルールが適正なのか、新型コロナウイルス後の未来に向けて議論していってほしいですね。

今後も引き分けを採用するのなら、ぜひ『引分完了』の制定を!

 今後も昨年のように引き分けが多くなるシーズンがあるかどうかは分かりませんが、どちらにしても個人的に変更してほしいルールが一つあります。それは引分試合時の最後を投げる救援投手にホールドが付かないというところです。現行のルールでは同点で登板し、無失点で試合を終わらせてもホールドが付かず(交代完了という記録が付く)、ホールドと同等の働きをしていても記録に反映されません一応『引分』という記録は付くのですが、リード時に投げて同点に追いつかれた状況でもカウントされるという割といい加減な記録です)。

 昨シーズンは”9回打ち切り”のせいで特にそんな不遇な投手が多かったこともあり、今回私は以下の『引分完了』という新しい記録を考えてみました

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 英語名は"引分試合を終わらせる"という意味で適当に付けました。

 同点時に登板し、無失点で最終アウトを取った全ての選手がこの『引分完了』に該当します。イニング制限はないので、2アウトで走者がいる状況で登板して最後の打者を抑えたり、3イニング以上投げている投手にもこの記録が付きます。なお、先述した『引分』には該当するリードした状況から同点に追いつかれ、誰かの勝利を消してしまった投手はこの記録に該当しません

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 昨季だけを見ても、かなり多くの『引分完了』が記録されています。防御率が悪く、セーブ失敗も目立ったDeNA・三嶋投手がリーグトップなのは意外ではないでしょうか。新人王を獲得した広島・栗林投手に至っては、引分完了を合わせると53登板中9割近くの47登板で僅差の展開で役割を果たしていることになり、新人離れした成績であったことが顕著になっています。

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 パ・リーグでは『引分』の記録を大幅に更新したロッテ・益田投手が『引分完了』でも圧倒しました。セーブ王を獲得しながら、チームの19回の引分中17試合(『引分』に該当する残り一つはセーブ失敗)でこの記録をマークしており、ロッテ躍進の要であったことが分かります。中日へ人的補償での移籍が決まった前ソフトバンク・岩嵜投手など、セーブ機会に恵まれない時期に最後の回を務めた投手の働きも正当に評価されるところも良い点です。

 昨季はセパ合わせると156の『引分完了』が記録されており、引分試合の実に75%以上でホールド相当の登板が見過ごされていることになります。引分数が多くなるほど、引分試合の最後を締める投手の価値が高くなると思うので、投手のモチベーションのためにも是非数値化して記録として採用してほしいところです。

 

2. 【2021年版】"リリーフ成功率"で救援投手を評価する

 ここからはちょっとした指標遊びになります。以下の記事で昨年作成したクオリティリリーフ(QR)というオリジナル指標を少し改定したので、見ていきましょう。

baseball-datajumble.hatenablog.com

クオリティーリリーフ(QR)の定義の見直し

 私は昨年の記事でリリーフ失敗を示す『ブロウンリリーフ(BR)』と登板時の勝利投手から白星を上書きする『盗勝』という記録を新たに定義し、リリーフ成功率をもとにリリーフ精度を表すクオリティリリーフ(QR)という指標を作成しました。

 

リリーフ成功率[R%] = (ホールドポイント[HP] + セーブ[S] - 盗勝)/(ホールドポイント[HP] + セーブ[Sv] - 盗勝 + ブロウンリリーフ[BR])

 

クオリティリリーフ[QR] = ホールドポイント[HP] + セーブ[S] - 盗勝 - ブロウンリリーフ[BR] × 4

 

 そして、昨年規定したブロウンリリーフの条件というのが、以下のような内容でした。

 

味方の最初の攻撃イニングが終わっており、なおかつホールドあるいはセーブが付く(条件A,Bを満たす)場面で登板する
自身の登板中に同点または逆転となるランナーの生還を許す

 

 以上の2つの条件を両方満たした登板がブロウンリリーフに該当します。

 2つ目の条件はブロウンセーブというセーブ失敗を示す指標の条件をもとに作ったものですが、ホールドあるいはセーブの失敗を登板中のランナーの生還を基準とする昨年の条件には問題があります。実際にランナーを出し、ピンチを招いた投手自身にブロウンリリーフが加算されないケースがあるのです。例えば、ある投手Aが走者を3人出して満塁とし、そこで投手が代わって次の投手Bが走者の生還を許したケースではBだけにブロウンリリーフが記録され、Aには記録されません。いくらなんでもこれではBが不憫ですよね。

 これに対応するため、今年はブロウンリリーフの条件を以下のように改定しました

 

・ホールドあるいはセーブが付く場面で登板する
・自身が走者に出塁を許したことによって相手の攻撃が継続し、以後の同一イニングで自身あるいは後続投手の登板中に同点または逆転となるランナーの生還を許す

 

 改定後の条件ではホールドに該当する登板で自分でイニングを終わらせられずにピンチを広げてしまった投手とランナーの生還を許してしまった投手が連帯責任でリリーフ失敗となります。いわゆる"マシンガン継投"で1イニングに3投手以上を注ぎ込んでしまった場合には、それだけブロウンリリーフが増えるリスクも上がります。逆に結果的に追いつかれることがなければ1アウト以上取っている全ての投手にホールドが付くので、ブルペンの団結力を示す意味でも悪くないのではないかと思います。

 更に前項の引分完了の追加に伴い、リリーフ成功率とクオリティリリーフについても以下のように改定しています

 

リリーフ成功率[R%] = (ホールドポイント[HP] + セーブ[S]+ 引分完了[DD] - 盗勝)/(ホールドポイント[HP] + セーブ[Sv]+ 引分完了[DD] - 盗勝 + ブロウンリリーフ[BR])

 

クオリティリリーフ[QR] = ホールドポイント[HP] + セーブ[Sv]+ 引分完了[DD] - 盗勝 - ブロウンリリーフ[BR] × 4

 

 ブロウンリリーフは勿論改定後の条件を採用したものです。今回はこの式に則った昨年のクオリティリリーフのランキングを見ていきます。

2021年セ・パ個人QRランキング

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 セ・リーグではセーブ王に輝いた阪神・スアレス投手がトップとなりました。リリーフ成功率は95%以上で、リリーフの層が薄かった阪神にとって優勝争いを支える大黒柱であったことが分かります。そして、ここでも素晴らしいのが広島のルーキー・栗林投手で、上位陣では登板数が少ない中でブロウンリリーフをわずか1回に留める精度の高さで首位と1ポイント差の2位に付けています。五輪のタイブレークでも発揮されたメンタル面も1年目とは思えず、今後の活躍が非常に楽しみです。一方、ヤクルトの優勝を支え、シーズンホールド数の新記録を樹立した清水投手はこの二人と比べるとリリーフ失敗が多いこともあり20ポイント弱に留まりました。しかしチームの先発の消費イニングの少なさと登板数を考えると十二分の活躍で、同じく90%程度の成功率だったマクガフ投手、今野投手と合わせるとリーグトップの盤石な勝ちパターンだったと言えるでしょう。

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 一方のパ・リーグでは増田投手の不振で5月以降はクローザーを務めた西武・平良投手がロッテ・益田投手と日本ハム・堀投手のタイトルホルダーを退け、1位となっています。上位陣はリリーフ機会(HP+S+DD-盗勝+BR)がトップクラスでありながら、全員が成功率90%程度の高い精度を維持しているのが素晴らしいです。また、ソフトバンク・モイネロ投手やシーズン途中加入ながら勝ちパターンに定着したたロッテ・国吉投手のように登板数が少なくてもトップ10に入れるところは単なる数ではなく精度を見るクオリティリリーフの特徴です。一方、ランキング内の他の投手よりもイニング数もリリーフ機会も格段に少ないオリックスのベテラン・比嘉投手は異質です。ここ数年の比嘉投手は前の投手がランナーをためた後の場面に特化していますが、このような"火消し"的な役割を任される投手はイニングが少なく、数字だけで見ると過小評価されがちです。しかし最初からランナーを背負った厳しい場面で登板しながら、自分の少しのミスが前の投手にも波及してしまう重い役割を担っていることを考えるともっと評価されても良いはずです。QRでは、そんな場面で結果を出し続けている比嘉投手も評価されるところも良い点ではないかと思いました。

2021年チームQRランキング

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 チーム別に見ると60QRを超えた楽天とオリックスがマイナスだった昨年から大きくプラスに転じており、救援陣がシーズン成績向上の原動力になっていたことが分かります。楽天は少ない登板数で中継ぎ抑えともに効率よくQRを稼げており、非常に理想的なブルペン整備ができていました。一方のオリックスは少し特殊で、抑え投手のセーブ失敗を示すcBSがリーグワーストでセーブ成功率も低かった一方、中継ぎ陣のQRだけで12球団トップレベルに躍り出ています。先発陣の躍進も手伝ってはいるものの、ここまで中継ぎ陣のリリーフ失敗が少ないのは首脳陣が適切な投手交代をできていた証と言えるでしょう。

 栗林投手だけで順位を大幅に上げている広島はややイレギュラーですが、昨年はQR9位の巨人までのこの他のチームも優勝チームと同等のリリーフ成功率を記録しており、リリーフで悩むチームが少なかった印象です。先発陣のイニング増加もありますが、やはり"9回打ち切り"ルールによって救援陣のイニングが抑えられていたことは大きかったと言えます。

 それだけに目立ってしまうのがQRマイナスを記録してしまったDeNA、ソフトバンク、西武の3チームです。3チームとも近年主要リリーフの登板数が特に嵩んでいたチームでもあり、無理させすぎた反動が一気にきてしまいました。ただDeNAと西武については先発がイニングを食えていないので、リリーフ精度が下がる年ができてしまうのは仕方ないと言えるかもしれません。一方、救援防御率自体は12球団3位であり、先発の消費イニングも平均以上だったソフトバンクは少し反省しなければなりません。見かけの数字以上にQRが悪いのはピンチに弱かったリリーフ陣自身も原因ではありますが、後を投げた投手がランナーを還したことによるブロウンリリーフ(chBR)の数も最多であることから、首脳陣の継投策も無駄が多く合理性を欠いていたことが窺えます。久々のBクラスに終わった昨年の何が悪かったのかをしっかり見直してリスタートしてほしいですね。

 

3. 【2021年版】投手の"勤続疲労"を数値化する

 最後に、昨年と同様に救援投手の"勤続疲労"について見ていきます。手の疲労を数値化するため、昨年私が考えた投手の疲弊度(EXI)は次のようなものでした。

 

疲弊度(EXI) = 投球数/登板間隔 = 投球数/((日数 - 1)/(登板 - 1)- 1)

※日数は一軍でのシーズン初登板日から最終登板日までの日数

 このままでも良いのですが、今回はこれに連投の多さを示す連投ptと、連投ptを用いた改定版の疲弊度(疲弊度21)も合わせて見ていきましょう。まず連投ptは以下の式で表されます。

 

連投pt = 1d × 1 + 2d × 2 + 3d × 3 + 4d × 4 + 5d × 5 + ・・・

※ndはn日連続で連投した回数

 日数を基準とした連投数に連投数分だけ数字をかけ合わせたものの合計が連投ptになります。例えばある投手が3連投した場合、最初の日は1連投目なので1pt、次の日は2連投目なので2pt、その次の日は3連投目なので3ptの合計6ptが付きます。この式に基づいた5連投以下の連投ptは以下のようになります。

1連投 1pt
2連投 1 + 2 = 3pt
3連投 1 + 2 + 3 = 6pt
4連投 1 + 2 + 3 + 4 = 10pt
5連投 1 + 2 + 3 + 4 + 5 = 15pt

 これをもとに、一週間(6試合)で起こりうる連投の組み合わせによる連投ptを出すと次のようになります

1連投 + 1連投 = 2pt
1連投 + 1連投 + 1連投 = 3pt
2連投 + 1連投 = 4pt
2連投 + 1連投 + 1連投 = 5pt
2連投 + 2連投 = 6pt
3連投 + 1連投 = 7pt
3連投 + 2連投 = 9pt
4連投 + 1連投 = 11pt

 同じ登板数でも連投数が多いほど、それだけ連投ptが高くなるという仕組みになっています。

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 昨シーズンのチームごとの連投ptを見てみると、やはり先発のイニング消費が少ないチームほど登板数が多くなっており、それに伴い連投ptも高くなっています連投係数というのは登板数に対する連投ptの比率で、この値が大きいと見かけの登板数よりも無理な起用をしているということになります。登板数と救援イニングと連投ptは基本的にはほぼ正比例の関係にありますが、ロッテだけは救援イニングに対する連投ptが抑えられており、優勝争いでリリーフに負担をかける中で登板数管理を徹底した成果が出ていると言えるでしょう。

 この連投ptを反映した2021年版の疲弊度が以下の疲弊度21です。

 

疲弊度21 = 投球数/登板間隔 × 連投係数 = 投球数/((日数 - 1)/(登板 - 1)- 1)× 連投pt/登板数

 

 この疲弊度21では投球数が少ない投手でも連投が多ければ疲弊度もそれだけ高くなります。これによってワンポイントなどイニングが少ない投手の疲弊度もより正確に数値化できるのではないかと考え、今回導入しました。では、リーグ別の個人連投ptランキングと各選手の疲弊度を見ていきましょう。

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 セ・リーグでは登板数1位のヤクルト・清水投手が連投ptもトップになり、昨年の疲弊度(疲弊度20)と疲弊度21もともに1位となりました。ヤクルトは他の投手も上位にランクインしており、タフな救援陣によって日本一の悲願が達成されたことが分かります。DeNAも最下位ながら昨季に続いてリリーフに負担をかけており、一刻も早い先発陣の奮起が渇望されます。チーム連投ptは2位の巨人のリリーフ陣は登板数が分散していることから疲弊度はそこまで高くはなっていませんが、どれだけの登板数と投球数が身体に影響を与えるかは選手個人によって違うので、長いシーズンを完走するためにも先発が多くのイニングを投げるための時代に合った方策をしっかり考えてほしいところです。

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 パ・リーグでも登板数上位の選手の連投ptが高くなっていますがDH制で先発投手が強制的に交代されないこともあってか全体的にパ・リーグは連投が少なく、リリーフの消耗が抑えられている印象です。その中でワンポイント左腕のソフトバンク・嘉弥真投手は登板数に対する連投ptが多く、昨年の疲弊度からの上昇率が特に大きくなっています。ソフトバンクは登板数上位の選手は少なかったものの連投係数の高い選手が多く、見かけの登板数よりもブルペンに負担をかけていたことが窺えます。このソフトバンクや西武は盤石な勝ちパターンに近年頼り切っていたこともあり、他のチームよりもリリーフの登板数管理に対する意識が低いので徐々に改善していかなければなりません

 チームによって特色はありますが、全体的には昨年は先発の消費イニングが増加したこともあり、規定到達者が極端に少なかったここ数年と比べると救援陣の酷使は抑えられているようです。しかしどのチームでも一試合を何とか終わらせようとする中で、特定の投手に無理をさせてしまうことはレベルの高いプロの世界では逃れられません。流動性が高く代わりが利きやすいポジションではありますが、リリーフは今やシーズンの命運を握る重要な要素なので、負担をかけてしまった投手には相応の評価をしてあげてほしいですね。

 

4. 終わりに

 以上、引き分けの歴史と救援投手についての記事でした。後半のオリジナル指標は置いておいて、最初に述べた『引分完了』という記録についてはいつからでも良いので似たようなものが採用されると嬉しいです。マイナスの部分がフィーチャーされてしまうのは情報社会の現代ではシビアな面も多いので球団内で留めた方が良いと思いますが、良い部分の働きを数字にする動きはもっとあっても良いはずです。今後の社会の変容によって引き分けが増えていくのか減っていくのかは分かりませんが、時代に応じて選手の評価方法も良い方向に変わっていくと良いですね。

 今年もやる気が保つ限りは12球団戦力分析の記事も上げていきたいと思います。それでは多分また次回。

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5. 参考サイト

- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 2021年度版

日本プロ野球記録

プロ野球 - スポーツナビ