プレミア12、負けられない戦いが続いていますね。第4回となる今回は、初回の記事の最後の方で触れた赤星式盗塁についての記事です。これまでの記事よりは短めの記事なので、お暇な方はどうぞ。
- 1. 2019年の赤星式盗塁ランキング
- 2. クイックモーションの確立と浸透
- 3. 通算赤星式盗塁ランキング(1969~)
- 4. 歴代通算赤星式盗塁ランキング
- 5. 31歳以降の赤星式盗塁
- 6. 終わりに
- 7. 参考サイト
1. 2019年の赤星式盗塁ランキング
まず、赤星式盗塁とは以下の式から表される盗塁技術の高さを示す指標です。
赤星式盗塁(ASB)=盗塁-盗塁死×2
これは、阪神タイガースで活躍し、ルーキーイヤーから5年連続盗塁王を獲得した赤星憲広氏の「盗塁は成功数だけでなく、失敗数にも注目してほしい。具体的にはいくら盗塁が多くても、それが盗塁死の倍と等しいなら価値はゼロ、下回るならマイナス」(⇒参照・赤星式盗塁)という発言をもとに某ネット掲示板で考案された指標です。つまり、盗塁を行うに当たっては盗塁数と盗塁成功率を両立させることが肝要であるということを意味しており、簡単に算出でき、セイバーメトリクスとも大方一致することから、有用な指標として認識されています。
これだけでは分かりにくいかもしれないので、今シーズンの結果を見ていきましょう。10盗塁以上の赤星式盗塁は以下のようになっています。
*カッコ内は盗塁-盗塁死、その右は盗塁成功率
セ・リーグ(10盗塁以上)
1 27(33-*3).917 山田哲人(ヤ)
2 16(30-*7).811 大島洋平(中)
3 11(15-*2).882 増田大輝(巨)
4 10(14-*2).875 野間峻祥(広)
5 *8(14-*3).824 梅野隆太郎(神)
5 *8(14-*3).824 重信慎之介(巨)
5 *8(12-*2).857 植田 海(神)
8 *7(11-*2).846 若林晃弘(巨)
9 *6(36-15).706 近本光司(神)
10 *4(14-*5).737 菊池涼介(広)
11 *3(17-*7).708 京田陽太(中)
12 *2(12-*5).706 丸 佳浩(巨)
13 -5(15-10).600 神里和毅(De)
14 -7(25-16).610 鈴木誠也(広)
パ・リーグ(10盗塁以上)
1 21(41-10).804 金子侑司(西)
2 15(25-*5).833 周東佑京(ソ)
3 12(30-*9).769 源田壮亮(西)
4 11(13-*1).929 岡 大海(ロ)
5 10(22-*6).786 外崎修汰(西)
6 *9(19-*5).792 西川遥輝(日)
6 *9(11-*1).917 釜元 豪(ソ)
8 *8(28-10).737 荻野貴司(ロ)
9 *7(13-*3).813 辰己涼介(楽)
10 *6(12-*3).800 佐野皓大(オ)
10 *6(10-*2).833 安達了一(オ)
12 *2(30-14).682 福田周平(オ)
12 *2(12-*5).706 中島卓也(日)
12 *2(10-*4).714 上林誠知(ソ)
15 *0(12-*6).667 中村奨吾(ロ)
16 -2(16-*9).640 木村文紀(西)
17 -4(12-*8).600 秋山翔吾(西)
18 -9(11-10).524 大城滉二(オ)
19 -16(10-13).435 牧原大成(ソ)
どうでしょうか。盗塁成功率の低い選手は盗塁数が多くても赤星式盗塁は伸びないことが分かると思います。今年セ・リーグ盗塁王だった阪神の近本選手が最たる例ですが、30盗塁以上していても、その半分近く失敗していることから、赤星式盗塁は1桁になっています。またロッテの中村奨吾選手のように3回に1回失敗する選手は赤星式盗塁がちょうどゼロとなり、ソフトバンク牧原選手のように成功率5割を大きく割る選手は大幅にマイナスとなります。逆に上位層は盗塁成功率が8割を超える選手が占めていることからも、この指標の優秀さが分かると思います。この結果から赤星式盗塁王を選出すると、セ・リーグはヤクルトの山田哲人選手、パ・リーグは西武の金子侑司選手になります(山田選手は2年連続4度目の受賞、金子選手は初受賞となります)。
2. クイックモーションの確立と浸透
次項に入る前に、クイックモーションの歴史について簡単に説明しておきます。クイックモーションとは、投手が盗塁を阻止するために投球動作を簡略化して投げることを言います。例えば普段ワインドアップで投げる投手が、ランナーがいる時はセットポジションで素早く投げていますよね。
当時この言葉があったかどうかは分かりませんが、”クイックモーション”の原型は1951年に西鉄ライオンズの総監督に就任した三原脩氏によって考え出されたと言われています。三原氏は盗塁を阻止するためには、「ランナーが一塁から二塁まで到達するのにかかる時間と、投手が捕手へ投球し、それが二塁へ送球されるまでの時間の差、この時間差を埋めることが重要であり、そのために投手は”クイックモーション”で投球し、捕手は素早く正確に二塁へ送球することが必要不可欠である」と(おそらく球界で初めて)説いたのです(⇒参照:魔術師 上 三原脩と西鉄ライオンズ(小学館文庫)/立石泰則)。そんな三原ID野球を実践した投手陣と流線型打線を擁した西鉄ライオンズは、1956~1958年に3年連続で巨人を倒して日本一に輝いています。しかしこの当時は、ランナーがリードしてから二塁に到達するまで4秒だったと言われています。一方、現代野球では一般的に3.2秒以内が目安と言われます。では、現代式のクイックモーションはいつ球界に浸透したのでしょうか。
その答えは簡単ではありませんが、参考になるのが元阪急ブレーブス・福本豊氏のシーズン盗塁数です。福本氏といえば1972年に当時の世界記録であるシーズン106盗塁を記録、さらに1983年には通算記録の世界記録を樹立しながら、国民栄誉賞を拒否したことが有名ですが、シーズン盗塁数についてはキャリア序盤と中盤で大きな差があります。具体的には3年連続90盗塁を記録した1974年の翌シーズン以降、70盗塁超えが一回もありません。これは加齢の影響もあるでしょうが、現代式の盗塁阻止技術=クイックモーションが球界に普及したことが大きいと考えていいでしょう。
その現代式のクイックモーションを編み出したのが1969年に南海ホークスの選手兼任監督に就任した野村克也氏です。野村氏と彼の尊敬する名参謀、ドン・ブレイザー氏は阪急の一番打者として活躍していた福本氏の盗塁を阻止するため、ほとんど足を上げずに投げるスリ足でのクイックモーションを考え出しました。福本氏もこれ以来、思い切ってスタートを切っても殺されるケースが増えた(⇒参照・福本豊「1065盗塁はノムさんのおかげ」)と述懐しています。このことから、福本氏の盗塁死が多くなった=盗塁成功率が下がった1976年以降にクイックモーションの考えは球界に浸透したとも言えます。いずれにせよ、1970年代には現代式のクイックモーションが確立されたと言って良さそうです。
3. 通算赤星式盗塁ランキング(1969~)
前項の通り現代式のクイックモーションが普及した時期についてははっきりとしていません。そこで今回は、1969年の福本氏の球界入り以降に入団した選手をクイックモーションの確立以後の選手として扱い、その中で通算150盗塁以上を達成している60名の選手についてのNPB通算赤星式盗塁ランキングを発表します。では60位からどうぞ。
*選手名の横は左から赤星式盗塁、カッコ内に盗塁-盗塁死、盗塁成功率、実働期間、所属球団、丸数字内に赤星式盗塁王の回数
60 高木 豊 -35(321-178).643 [1981-1994] 大洋-横浜-日本ハム
59 大村 直之 -11(203-107).655 [1994-2010] 近鉄-ソフトバンク-オリックス
58 山本 浩二 -7(231-119).660 [1969-1986] 広島
マイナス(=盗塁成功率.667以下)だったのはこの3人のみで、スーパーカートリオの核弾頭・高木豊が最下位に
当時の大洋ホエールズ・近藤貞雄監督の戦略で走りまくった影響もあるが、300盗塁以上では最低の成功率だけあって納得の最下位
57 若松 勉 1(151-*75).668 [1971-1989] ヤクルト
56 丸 佳浩 8(152-*72).679 [2008-] 広島-巨人
55 村松 有人 18(270-126).682 [1991-2010] ダイエー-オリックス-ソフトバンク
54 金本 知憲 19(167-*74).693 [1992-2012] 広島-阪神
53 石井 琢朗 20(358-169).679 [1989-2012] 大洋-横浜-広島③
52 白井 一幸 22(168-*73).697 [1984-1996] 日本ハム-オリックス
51 平野 謙 26(230-102).693 [1978-1996] 中日-西武-ロッテ
NPB16位の358盗塁を記録した石井琢朗でもこの順位
石井は1998~2000年に3年連続赤星式盗塁王を獲得しているが、この期間以外の成功率がすこぶる悪く、赤星式盗塁は伸びていない
50 西岡 剛 30(196-*83).703 [2003-2010,2013-2018] ロッテ-(MIN)-阪神①
49 飯塚 佳寛 31(171-*70).710 [1969-1980] ロッテ-大洋-広島-ロッテ
48 加藤 博一 35(169-*67).716 [1970-1990] 西鉄-太平洋-阪神-大洋
47 田中 賢介 37(203-*83).710 [2000-2012,2015-2019] 日本ハム-(SF)-日本ハム
46 藤原 満 41(195-*77).717 [1969-1982] 南海
45 野村謙二郎 42(250-104).706 [1989-2005] 広島③
44 大島 洋平 45(217-*86).716 [2010-] 中日
43 新井 宏昌 47(165-*59).737 [1975-1992] 南海-近鉄
42 飯田 哲也 50(234-*92).718 [1987-2006] ヤクルト-楽天①
2012年に32盗塁で盗塁王を取った際には17盗塁死でマイナスだった中日・大島洋平
しかし年齢を重ねるごとに次第に盗塁技術が上がり、今年は初めて成功率.800を達成 順位を上げてきた
40 川﨑 宗則 51(267-108).712 [2000-2011,2017] ダイエー-ソフトバンク-(SEA-TOR-CHC)-ソフトバンク
40 松永 浩美 51(239-*94).718 [1978-1997] 阪急-オリックス-阪神-ダイエー①
38 青木 宣親 54(168-*57).747 [2004-2011] ヤクルト-(MIL-KC-SF-SEA-HOU-TOR-NYM)-ヤクルト①
38 真弓 明信 54(200-*73).733 [1973-1995] 太平洋-クラウンライター-阪神①
37 坂本 勇人 64(152-*44).776 [2007-] 巨人②
33 金子 侑司 65(195-*65).750 [2013-] 西武①
33 谷 佳知 65(167-*51).766 [1997-2015] オリックス-巨人-オリックス②
33 髙橋 慶彦 65(477-206).698 [1975-1992] 広島-ロッテ-阪神②
33 河埜 和正 65(153-*44).777 [1970-1986] 巨人③
32 井口 資仁 66(176-*55).762 [1997-2004,2009-2017] ダイエー-(CHW-PHI-SD-PHI)-ロッテ②
31 佐々木 誠 68(242-*87).736 [1984-2000] ダイエー-西武-阪神②
通算盗塁数5位の髙橋慶彦も大きく順位を落とした
やはり盗塁成功率7割を切ると赤星式盗塁は伸びない
逆に成功率.750を超えている河埜、谷、井口、坂本は少ない盗塁数で髙橋と同等の数字になっている
30 辻 発彦 70(242-*86).738 [1984-1999] 西武-ヤクルト①
29 秋山 幸二 71(303-116).723 [1981-2002] 西武-ダイエー①
28 弘田 澄男 74(294-110).728 [1972-1988] ロッテ-阪神
27 小坂 誠 81(279-*99).738 [1997-2010] ロッテ-巨人-楽天①
26 島田 誠 82(352-135).723 [1977-1991] 日本ハム-ダイエー②
24 中島 卓也 83(163-*40).803 [2009-] 日本ハム①
24 聖澤 諒 83(197-*57).776 [2008-2018] 楽天①
23 奈良原 浩 88(198-*55).783 [1991-2006] 西武-日本ハム-中日
22 緒方 孝市 96(268-*86).757 [1987-2009] 広島③
日本ハムに残留が決まった中島卓也は、2015年に赤星式盗塁王経験もあり、成功率.800を超える隠れた盗塁の名手
彼のようなタイプは衰えが早いが、30歳となる来季挽回できるか
20 山崎 隆造 98(228-*65).778 [1977-1993] 広島①
20 有藤 通世 98(282-*92).754 [1969-1986] ロッテ
19 石毛 宏典 101(243-*71).774 [1981-1996] 西武-ダイエー
18 簑田 浩二 102(250-*74).772 [1976-1990] 阪急-巨人①
17 福地 寿樹 111(251-*70).782 [1994-2012] 広島-西武-ヤクルト①
16 屋鋪 要 115(327-106).755 [1978-1995] 大洋-横浜-巨人②
3球団を渡り歩いた福地寿樹は、34歳となる2009年に初めて赤星式盗塁王に輝いた変わった選手
このシーズンの福地は30赤星式盗塁を記録しているが、これは30歳以降に30赤星式盗塁を記録した最年長記録である
15 山田 哲人 120(168-*24).875 [2011-] ヤクルト④
13 荻野 貴司 127(201-*37).845 [2010-] ロッテ
13 糸井 嘉男 127(297-*85).777 [2004-] 日本ハム-オリックス-阪神
12 本多 雄一 128(342-107).762 [2006-2018] ソフトバンク①
11 片岡 治大 132(320-*94).773 [2005-2017] 西武-巨人③
現役選手、最近引退した選手が続々と登場
山田は通算150盗塁以上では最高の成功率であり、本塁打も両立しながら効率良く赤星式盗塁を積み重ねている
荻野は怪我をしながら、糸井は野手転向後からの記録であることを考えると、なかなかの数字
2010年にハイレベルな盗塁王争いを展開した本多と片岡の勝負は僅差で片岡に軍配が上がった
10 イチロー 133(199-*33).858 [1992-2000] オリックス①
山田らが登場するまでは通算150盗塁以上の成功率1位だったのがNPB時代のイチロー
その中で、1998年・1999年の盗塁数が10台と極端に少ないのが目立つが、盗塁に対する意識の変化の現れだろうか
9 鈴木 尚広 134(228-*47).829 [1997-2016] 巨人①
原巨人の黄金期を代走のスペシャリストとして支えた鈴木尚広氏はNPBイチローを僅かに超え9位に
今季はコーチとして走塁改革を行い、原巨人の5年ぶりのリーグ優勝に貢献したが・・・
8 松本 匡史 136(342-103).769 [1977-1987] 巨人③
8位の松本匡史は盗塁王を2回、赤星式盗塁王も3回獲得している"青い稲妻"
1983年に記録したシーズン76盗塁はセ・リーグ記録だが、これはクイックモーションが浸透しきった後であることを考えると、ものすごい大記録である
7 西村 徳文 149(363-107).772 [1982-1997] ロッテ②
現在はおそらくオリックス監督として認識されている西村徳文は、現役時代はロッテの両打ちのスピードスターとして活躍した
クイックモーションの浸透以後に40赤星式盗塁以上をマークした三人のうちの一人
6 荒木 雅博 150(378-114).768 [1996-2018] 中日①
6位は昨年引退した中日の名馬・荒木雅博
荒木は37歳以降の盗塁成功率が.917(44-4)と非常に高く、そのキャリア終盤に実に36赤星式盗塁を積み重ねている
これはメジャーイチローに次ぐ記録であり、ベテランになっても走力で勝負することができた数少ない選手の一人と言える
5 大石大二郎 153(415-131).760 [1981-1997] 近鉄③
5位は福本の連続盗塁王記録を止めた大石大二郎
福本を最高のプロ野球選手として理想に掲げ、NPB通算7位となる415盗塁を記録した
三盗技術に長けており、そのためか赤星式盗塁王の最年長記録も持っている
4 西川 遥輝 169(245-*38).866 [2011-] 日本ハム④
通算赤星式盗塁数現役1位の西川遥輝は現在4位
今年やや足踏みしてしまったが、200盗塁以上の成功率一位は確固たるものになりつつある
同世代の山田に記録を抜かれるまでに、300盗塁に到達したいところだ
3 松井稼頭央 203(363-*80).819 [1994-2003,2011-2018] 西武-(NYM-COL-HOU)-楽天-西武④
3位に歴代最高の遊撃手との呼び声も高い松井稼頭央
高卒後9年での173赤星式盗塁は西川も超えられなかった数字であり、この時の松井が球史上最も走攻守揃った遊撃手であったことは間違いないだろう
2 赤星 憲広 205(381-*88).812 [2001-2009] 阪神⑤
本指標の提唱者である赤星憲広氏は堂々の2位
福本と赤星しか達成していない3年連続60盗塁以上は、クイックモーションが浸透した現代野球では前人未到の記録
積極的な守備が現役生活を縮めてしまったが、怪我が無ければどれくらい記録を伸ばせていただろうか
1 福本 豊 467(1065-299).781 [1969-1988] 阪急⑩
1位はもちろん世界の盗塁王・福本豊
前述の通り晩年は盗塁成功率を落としてしまったが、それでも赤星から250以上も離してのダントツの首位
彼の投手のクセを追究した盗塁術が結果的に野村らによる現代式のクイックモーション開発を促し、日本野球に大革命を起こした
4. 歴代通算赤星式盗塁ランキング
2019年オフの現在、歴代の日米通算通算赤星式盗塁ランキングトップ10は以下のようになっています。知らない名前があるかもしれません。今回のランキングに入らなかった、1968年以前のレジェンドを数名紹介します。
*カッコ内は盗塁-盗塁死、その右は盗塁成功率、名前の右は実働期間
1 467(1065-299).781 福本 豊 [1969-1988]
2 408(*708-150).825 イチロー [1992-2019]
3 350(*596-123).829 広瀬 叔功 [1955-1977]
4 269(*465-*98).826 松井稼頭央 [1994-2018]
5 251(*479-114).808 木塚 忠助 [1948-1959]
6 205(*381-*88).812 赤星 憲広 [2001-2009]
7 193(*579-193).750 柴田 勲 [1962-1981]
8 169(*245-*38).866 西川 遥輝 [2011-]
9 159(*321-*81).799 呉 昌征 [1937-1957]※1942年からの記録
10 154(*456-151).751 金山 次郎 [1943-1957]
3位の広瀬叔功氏は福本氏が敬愛する南海ホークス黄金期のリードオフマンです。300盗塁以上の盗塁成功率.829は歴代1位の記録であり、首位打者と盗塁王を同時に受賞した数少ない選手のうちの一人でもあります(1964年、他は1992年佐々木誠、1995年イチロー)。5位の木塚忠助氏は黎明期の南海ホークスの遊撃手です。1950年に記録した62赤星式盗塁は1973年に福本氏が抜くまではシーズン最高記録でした。7位の柴田勲氏はV9時代の読売ジャイアンツで主に一番打者を務めた不動の中堅手です。通算579盗塁はセ・リーグ記録であり、スイッチヒッターの草分け的存在でもあります。現在の台湾出身(当時は日本領だった)の呉昌征氏は戦前の読売ジャイアンツで二年連続首位打者を獲得した選手です。1941年以前は盗塁死が記録されていなかったことから、実際の通算赤星式盗塁はもっと多いことが推測されます。10位の金山次郎氏は極端な打高シーズンだった1950年にセ・リーグ初代王者に輝いた松竹ロビンスで通称・水爆打線の一番打者として活躍した選手です。このシーズンに記録した48赤星式盗塁がセ・リーグのシーズン記録となっています。
プロ野球黎明期の”クイックモーション”が具体的にどのようなものであったかは分かりませんが、現代式のクイックモーションが開発される以前でも盗塁成功率の悪い選手は沢山いたことから、1968年以前に150を超える赤星式盗塁を記録したこの5選手は傑出した盗塁能力を持った選手であったと言っていいでしょう。
5. 31歳以降の赤星式盗塁
最後に、ほとんどの選手は衰えてしまい走力で勝負することはできない31歳以降に盗塁が多かった6名の赤星式盗塁の伸び具合をグラフにしましたので、載せます。
これを見ると、ベテランになってもある程度走れる選手でも、30歳を超えてから赤星式盗塁を伸ばすことは相当難易度が高いことが分かります。その中で今年引退したイチロー氏の突出具合が目立ちますね。イチロー氏は実に40歳を超えるまでペースが一貫しており、現役晩年まで盗塁技術が衰えていなかったと言えます。これはイチロー選手が誰よりも野球を愛し、準備を決して怠らなかった日々の努力の結晶と言っていいでしょう。
6. 終わりに
以上、赤星式盗塁についてできるだけ新しい情報をまとめました。知っていることも多かったかもしれませんが、面白いと思っていただけたら幸いです。なお、前半で盗塁王である近本選手の赤星式盗塁が低いと書きましたが、一シーズンは成功率の悪かった選手も、改善することはままあることなので、来年の近本選手に期待しましょう。予定より長くなってしまいましたが、これで終わります。
※2020年版も出来ました。お時間があれば是非ご一読を。
baseball-datajumble.hatenablog.com
(2020/12/6追記)