オリックスがアダム・ジョーンズ選手の獲得を発表しましたね!代表熱の高い選手なので何となく日本球界への順応も早そうですし、大活躍を期待したいです。今年は他球団も阪神のボーア選手、巨人のパーラ選手、ヤクルトのエスコバー選手など大物のメジャーリーガーの入団が続々と発表されていて、早くも来季が楽しみですね。さて今回は、パワーとスピード、そして持続力を兼ね備えた選手たちを紹介します。お暇な方はご一読を。
1. パワー・スピード・持続力を指標化する
シーズンではトリプルスリー(3割30本塁打30盗塁)という記録があるように、本塁打と盗塁、そして打率を高いレベルで兼ね備えた成績は、長打力と走力を武器とする選手にとって一つの到達目標です。しかし、こういったパワーとスピード、そして高い持続力を持つ選手たちが残した成績がどの程度凄かったのかを総合的に評価する指標はありません。そこで今回は既存の指標を使って、トリプルスリーもしくはそれに準ずる成績を残し続ける選手たちを評価する指標を作ってみようと思います。
その選手がパワーとスピードを兼ね備えた選手かどうかを見るための指標としては、以下の式で表されるPS(Power-Speed number)が既にあります。
PS=(本塁打×盗塁×2)/(本塁打+盗塁)
以下の2019年度のランキングから、この指標の傾向を見ていきます。
一位はもちろんMr.トリプルスリー・山田哲人選手で、続いて鈴木選手、外崎選手と未来のトリプルスリー候補が名を連ねています。一方で近本選手、坂本選手、村上選手といった、本塁打と盗塁の合計数(ネットでは片岡治大氏にちなみ片岡式本塁打と呼ばれているもの)は多くても、片方の指標が極端に低い選手はPSが伸びていません。このように、PSは本塁打と盗塁が同じく高い場合に高い数値を取り、本塁打と盗塁に差がある場合は低い方の指標に近い数値を取る傾向があります。この傾向は、本塁打と盗塁の項が違う変数の場合も同じであり、この2XY/(X+Y)という式は様々な指標の評価に使えそうです。
せっかくなので、今回はこの2XY/(X+Y)という式に当てはめてパワー・スピード・持続力を表す新しい指標を作ってみましょう。パワーとスピードを表す指標はPSが良さそうなので、XにPS、そしてYに持続力を表す指標(ここでは"J"とする)を当てはめると、仮の新指標PS+は次のような形になります。
PS+=(PS×J×2)/(PS+J)
では、持続力を表す指標"J"には何を当てはめるのが適当でしょうか。持続力とは打率のことなので、打率もしくは安打数を当てはめれば良いかもしれません。実例を見た方が早いですね。先程の今年度のランキングに持続力を表す指標"J"として安打数を当てはめたものを以下に示します。
どうでしょうか。PSよりは打率が反映されたランキングになっているものの、打率1割台の上林選手が茂木選手と同等の数値になるなど、いまいち納得のいかないランキングになっています。というのも、PSと安打数の2つの要素の数値の差が大きすぎて、PSの要素が強く残ってしまうからです。
そこで、PSの実際の値が重要になってきます。PSは本塁打と盗塁が同じくらいの場合に、その本塁打数、盗塁数と同等の数値を取る指標なので、一シーズンあたりでは現実的には最大で40くらいを取る指標になります。持続力とPSを均等に評価する指標を作るためには、PSと同じくらいの数値を取る持続力の指標"J"を持ってくる必要があります。
「そんな指標無い・・・」と思われるかもしれませんが、ここで私が今回注目したのは塁打数という指標です。塁打数とは、長打率の分子になっている全安打中の塁打を足し上げたもので、一シーズンあたり100~300くらいを取る指標です。安打数の発展型の指標なので、持続力を表す指標としても良さそうです。しかしこれでは"J"の指標としては数値が大きすぎるので、野球は4塁打で1得点ということから、4で割ってみましょう。さらに、本塁打分の塁打を引くと、"J"改めRfhは以下のような式になります。
J=Rfh=(塁打-本塁打×4)/4
この"J"は「本塁打以外の安打が何得点に値するか」を表すことから、フィールド内のヒットによる得点を表す略称Rfhを用いています。これを用いると、先程のPS+の式は以下のように書き改められます。
PS+=PSS=(PS×Rfh×2)/(PS+Rfh)
ここでPS+はパワー(Power)・スピード(Speed)・持続力(Sustainability)を表す指標であることから、PSS(Power-Speed-Sustainability number)と新たに名付けています。このPSSの今年度のランキングは、以下のようになります。
RfhがPSと同じような値を取り、PSSが両方の要素がバランス良く反映された指標になっていることが見て取れると思います。計算もまあまあ簡単なので、ネタ指標としては良い指標ではないでしょうか。次項からはこのPSSを使って、歴代の好打者を紹介したいと思います。
2. 歴代打者の通算PSSランキング
それでは、歴代打者のPSS通算記録ベスト50を見ていきましょう。Rfhは二塁打、三塁打の要素を含む指標なので、その関連の記録も紹介したいと思います。また、達成年度の欄には1500安打150本塁打150盗塁(以下トリプル15)を達成した選手たちの達成年度を示しています。こちらも、意外な選手が並んでいますよ。それでは、どうぞ!
*スマホでは表が小さすぎるかもしれませんが、悪しからず・・・
52二塁打のシーズン記録を持っている谷佳知、通算記録を持つ立浪和義などはRfhが高く出ている 中でも立浪のRfhはNPBで3位の記録
50位の中西太は西鉄黄金期の中心打者 高卒2年目にトリプルスリーを達成し、以降も三冠王に迫る成績を何度も残した
中西らとともに三原監督下の常勝西鉄ライオンズで一番打者を務めていたのが高倉照幸 先頭打者ホームランが多く、切り込み隊長と呼ばれた
毒島章一は彼らと同時代に活躍したミスターフライヤーズ 106三塁打は福本豊に次ぐ2位で、「三塁打の毒島」の異名を取った
現役最高の遊撃手・坂本勇人は今年トリプル15を達成 今年キャリアハイの40本塁打と未だ成長を続けており、今後もどんな打者に変貌を遂げるかに注目だ
大型トレードの印象も強い佐々木誠は初期ダイエーの人気選手 南海が最後に勝った試合とダイエーが最初に勝った試合で本塁打を打っている
青田昇は3球団を渡り歩いた元祖・和製大砲 巨人時代は川上哲治とともにAK砲を形成し、黄金期を築いた
糸井嘉男がNPB現役最高の29位にランクイン トリプル15も昨年度達成
野手に転向しレギュラーに定着したのは28歳となる2009年であり、そこからの記録と考えると相当なスピード記録かつ超人的な記録である
25位の白仁天は韓国人プロ野球選手の草分け的存在 外国人(枠ではなかったが、)選手としては唯一の200本塁打200盗塁を記録している
川上哲治は監督としても名高いが、2000本安打、そしてトリプル15を一番最初に達成した選手でもある「打撃の神様」
鈍足選手として有名だったが20代後半から盗塁数を伸ばしており、最後まで攻撃技術向上に余念がなかった
ここからはほぼ全員がトリプル15の達成者
今年度まで広島の監督だった緒方孝市もトリプルスリーに近づいた選手の一人 怪我もあり30代以降は盗塁を重ねられなかったが、長距離砲タイプに転身し現役最終年にトリプル15を達成した
豊田泰光は西鉄ライオンズを代表する遊撃手で、黄金期には強打の二番打者としてチームを牽引した 選球眼も良い理想的な中軸打者
現在では1950年の161打点ばかりが注目される小鶴誠は、15シーズン・5球団と長きに渡って活躍した5ツールプレイヤー
昔の強打者は盗塁数が多くても失敗数もそれなりにある選手が多いが、小鶴は成功率.746と盗塁技術も高かった
16位には先頭打者本塁打NPB2位(41本)の記録を持つ真弓明信 本塁生還数のタイトルは無いが、間違いなく史上最強の一番打者の一人
15位の石毛宏典は常勝西武ライオンズのチームリーダー 200本塁打200盗塁200犠打をマークした数少ない選手の一人
12位の飯田徳治は南海黄金期の名一塁手 国鉄に移籍した1957年には史上唯一の4番打者での盗塁王を達成している
2000年にトリプルスリーを達成している金本知憲は11位 連続フルイニング出場を続けた中でのこの数字は価値が高い
井口資仁も日米通算では金本を超えるPSSを記録 NPBだけでもトリプル15を達成しているホークス最高の二塁手
塁打に関するどの記録でも上位に顔を出すミスタープロ野球・長嶋茂雄が9位にランクイン トリプル15の達成速度はトップであることからも、当時の傑出度が垣間見える
7位にはミスター・ロッテ、有藤通世 入団から17年連続2桁本塁打を記録するなど、大型三塁手として活躍した
今では監督としての印象が強い髙木守道は、通算でトリプル20(2000安打200本塁打200盗塁)を記録している凄い選手
二塁手としてのベストナイン7回は史上最多で、ドラゴンズ史上最高の選手との呼び声も高い
5位以上にはPSS400を超える選手がズラリと並ぶ
4位には史上最高の5ツールプレイヤー・秋山幸二 プロ野球史上で最も40本塁打40盗塁に近づいた選手であり、30本塁打30赤星式盗塁を達成した唯一の選手でもある
5位に山本浩二、3位に衣笠祥雄と赤ヘル黄金期の両主砲が揃ってランクイン
二人は同世代でありながら2000安打、500本塁打、200盗塁を達成しており、名コンビとして長くファンを魅了した
そして松井稼頭央、福本豊がしのぎを削る中、PSS500を超えて堂々のトップに立ったのが張本勲
NPB最高の3085安打に史上唯一の通算トリプルスリー・トリプル30を記録しており、史上屈指の強打者と言っても過言ではないだろう これからも球界のご意見番として、お茶の間を沸かせてほしい
日米通算でその張本を超えるPSSを記録したのは、もちろんイチロー
あまり注目されないが、日米通算安打数と塁打数に加え、二塁打数、三塁打数も歴代トップである これからはおそらく指導者として、どんな姿を見せてくれるのかに期待したい
現役でのPSSランキングは以上のようになっている
青木宣親はトリプル15まであと7本塁打 来季中の達成に期待がかかる
トリプル15で言うと、あとは丸佳浩、山田哲人、柳田悠岐の達成が早そう
この後に続く選手がまだ少ないので、次世代の打者にもこの記録を狙えるくらいの成長を期待したい
3. PSSのシーズン記録
最後に、PSSのシーズン記録のランキングを見ていきます。歴代のトリプルスリー達成者およびそれに準ずる成績を残した打者のシーズン記録は以下のようになっています。
まず目を引くのが、トップの松井稼頭央氏の記録ですね。トリプルスリーに加え、遊撃手最高の359塁打と非の打ち所がありません。そして2位には2015年の山田哲人選手。このキャリアハイを超える成績をもう一度期待したいというのは贅沢でしょうか。続いて小鶴誠氏、岩本義行氏の1950年の水爆打線の三、四番が並びます。これに161打点、127打点ですから、この年の二人の成績はとてつもないですね。トリプルスリーではありませんが、2003年の井口資仁氏の成績も改めて見ると抜けています。また、30台前半とこの中では低いPSSを記録している選手を見ていくと、二塁打、三塁打が少なく、塁打が伸びていない打者が集まっていることが分かります。特にPSではこの中でトップクラスの高い数値を記録している1987年と1990年の秋山幸二氏の成績はPSSでは30台前半に留まっています。このあたりはPSSの良い点と言えるかもしれません。一方で、簑田浩二氏のトリプルスリー時のPSSが1980年のPSSを下回っているところや、.363というトリプルスリー達成者の中では圧倒的な打率を残した2015年の柳田選手の成績が、同年度の山田選手のPSSを下回っているところなどには、持続力の評価として打率ではなく塁打を採用してしまったPSSの悪い面も出ています。新たな課題も見つかりましたが、PSSによってトリプルスリーや通算記録のトリプル15を記録する選手が炙り出せる有用性も分かっていただけたら幸いです。
4. 終わりに
PSSについては改善点も多々あると思いますが、今回の記事でパワー・スピード・持続力が三拍子揃った選手について新しいことを知っていただけたなら嬉しいです。そして山田選手のせいで感覚が麻痺していますがトリプルスリーは球史上10人しか達成者がいない難しい記録なので、シーズンではトリプルスリーに届かない選手も通算でのトリプル15を目指して頑張ってほしいですね(もちろん山田選手の今後のトリプルスリーにも期待したいです!)。さて次回は、本ブログ初となるメジャーリーグについての記事です。MLBについては全く詳しくないのですが、何とか読み応えのある記事にしたいと思います。それでは、また。