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2023年前半戦 プロ野球振り返り【先発登板間隔、QS、被QSデータをもとに】

皆さん、今年も野球見てますか?海の向こうでは生きる伝説・大谷翔平選手に、吉田正尚選手、千賀滉大選手、更にまさかの藤浪晋太郎選手まで最近は頑張っているMLBが例年にない盛り上がりを見せていますね。コロナムードが明け、世界有数の日本の野球熱も戻ってきており、プロ野球興行の集客力の高さを再確認しています。シーズンオフに気になったデータを上げるだけのブログですが、今回は前半戦の振り返りとして先発投手の登板間隔とQSにテーマを絞ったデータを見てチームの概況を俯瞰してみました。

※注意⚠️!スマホからは図が見にくいかもしれません!画面から目を離して、無理せず明るい所で見ましょう

"登板間隔"が多様化した近年のプロ野球

登板間隔を従来より"広げる"手法でヤクルトが2連覇した一方で、今年DeNA入りしたコロナ禍のサイ・ヤング賞右腕兼Youtuberのトレバー・バウアー投手が「中4日」で2失点完投したことで、先発投手の登板間隔についてよりフィーチャーされることが多くなりましたね

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前回の記事でも少し触れたのですが、上のグラフのように従来の「中6日」型から、コロナ禍突入前後の"先発投手氷河期"を挟んで「中7日」へ移行してきたのがここ数年のプロ野球で、より選手個人の体調重視の起用法に変わってきました。そして、ここ2年は登板間隔に関わらずイニングが食えるようになってきているのが特徴で、それが極端な打低傾向へと直結しています。イニング向上の要因は打者側の世代交代が遅れていることや有力外国人野手が少ないこと、昨シーズン前に包装方法が変わったという記事もあったボールの問題もありますが、最大の要因はデータ解析機器の普及によって理にかなった細かい配球(トレーニングも?)をしやすくなったこと、それによって投手の身体的負担を考慮した球数効率重視の運用がより実現可能になったことだと思われます。円安やコロナの影響もありますが、これらの要因により数年前の想定より投手レベルが上がりすぎたせいで、海外スカウトが目をつけていたメジャー以下3A以上の外国人野手が思ったよりも全然打てないというような事態が多くなっているように感じました。

このように、当たり前の手法にとらわれない起用法が実践できる環境が整いつつあり、それによって投手レベルが急激に向上したのがごく最近のプロ野球界です。しかもNPBはMLBとは違い、将来有望な高卒後間もないプロスペクトも一軍で成長の場を与えられるため、投手ごとに適した登板間隔というのが違います。それだけに、キャリア全体も俯瞰しながら、その時の最大の潜在能力を引き出させるために、登板間隔の管理などの運用方法をどのように調整していくかがポイントになっています。

2023年前半戦の先発投手の登板間隔を見ても、球団によってかなり色が出ていますね。どういう登板間隔が良いというのは投手個人のコンディションやメンタルによっても違うと思うので、選手とコミュニケーションを取って投げ心地(?)の良い環境を整えることがとても大事になっています。

登板間隔、QS、被QSごとの勝敗データ

項目ごとのデータを見る前に、このブログで先発のスタートの評価する際に使う用語を紹介します。

HQS(High Quality Start):7回以上かつ2自責点以下の試合

MQS(Moderate Quality Start):6回以上かつ3自責点以下の試合のうち、HQSでないもの

wS(winner's Start):5回以上6回未満かつ3自責点以下の試合

yyS(you yattoru Start):5回以上4自責点以上の試合

shS(short Start):5回未満で降板した試合

lostS(lost Start):shSまたはyySした試合の総称

QS%:QS(HQSあるいはMQS)した試合の割合

wS%:QS(HQSあるいはMQS)またはwSした試合の割合

QSX(QS cross):QSしたのに、相手もQSした試合のこと

QS未満のスタートを分かりやすくするために細分化したというだけですが、wS%がQSとwSを含んだ(勝つ確率の高い)試合のパーセンテージになっており、少し分かりにくいのに注意。今回はQSXという、せっかくQSしたのに仕返された、ファンにとってはイライラもする緊迫したケースも取り上げてみます。

セ・リーグ

先発の登板間隔ごとの勝敗

※初登板の得失点が間違っていることが分かりました。シーズン終了時に訂正版を上げたいと思います。

セ・リーグは「中6日以下」での運用が多いだけあって、登板間隔を狭めても安定したQS率をマークしているチームが多いですね。その中で先発の質で勝っているのが、登板間隔を「中7日以上」に空けてもQS率が60%を優に超えている首位・阪神です。青柳投手の絶不調も何のその、才木投手、村上投手、大竹投手ら若手の一軍新戦力でレベルの高いローテを回している、先発の層が非常に厚い阪神のようなチームはwS%もかなり高く、勝ちパターンの疲労を抑えられるのが何より良い点です。どの中継ぎを切るかという判断力は試されますが、救援陣に弱点があったとしても大崩れはしない(打線も平均以上の得点は望める)、本質的にペナントが強いチームと言えるでしょう。ただ、阪神は先発が今季"初登板"をした11試合で7の貯金を作っている割には貯金が伸び悩んでおり、それが交流戦以降の物足りなさに繋がっています。「中6日以下」で投げるレベルの高い投手相手に得点を稼げないのが弱点なので、佐藤輝明選手やルーキーの森下選手などポイントゲッターとなる選手の状態整備が今後のポイントですね。

同様に登板間隔によらずQS率の高いカープも先発の層が厚いチームですが、過去2年は主力投手の故障や栗林投手以外の救援陣の枚数の問題があり、うまくいっていませんでした。今季も森下投手や床田投手、更にWBCに一度は合流した栗林投手らの状態が悪い中でシーズンに突入したのですが、より今の選手目線の新井監督に代わったことも功を奏し、元々能力が高かった先発投手の強みを効果的に発揮できるようになっています初登板の試合で貯金を稼いでいる阪神とは対照的に、2登板目以降の「中6日以下」の僅差の試合で貯金を稼いでいるのが後半戦へ向けたかなりの好材料で、矢崎投手らが頑張っている救援陣さえ崩れなければ安定するのではないでしょうか。表向きのイメージを逆手に巧みにペナントを戦う新井さんのカープに今後も注目です。

一方、この2チームと争うDeNAは先発不足に悩んできたチームで、登板間隔を開いた運用が多くなっているのが特徴ですが、レベルの高い打線と救援陣の力もあって優勝圏内につけています。前回も触れたように先発がイニングを稼がなくとも救援陣の力で勝ちをもぎ取る"工藤ソフトバンク型"のチームなので、山﨑康晃投手に限界が見えている抑え投手さえ整備すればペナントでは1位を取れなくとも、CSからの優勝も狙えるくらい戦力が整っています。

他方、Bクラスに落ちてしまい、ようやく再建期へと舵を切った巨人は先発も打線も調子がまちまちで、貯金を積み重ねていく状態に達していません根本的な戦力の差はありますが、中堅選手を大放出し暗黒期脱出を図る中日も同様の状況にあるといえるでしょうか。WBCを経て更なる大変身を遂げた岡本和真選手を筆頭に、秋広選手や細川選手、石川昂弥選手など、これからの世代の主役、有望株も結果を出していますし、若手の成長を糧に応援していきたいですね。

これら他球団とは多少色が違うのが、過去2年は「中7日以上」の運用を多くして連覇という最高の結果を出したヤクルトです。前回の記事では2年連続最下位からの連覇を実現させたこの運用法について主に取り上げたのですが、再びBクラスに沈んでいる今季は「中6日以下」が50%以上と、70%近くを「中7日以上」で登板させていた昨年とは明らかに方針転換してきています。元々毎年優勝を目指すようなチームではないので、連覇したこと(と村上選手ら主力のWBC疲れ)で新しいサイクルに入ったということでしょうか。やはり登板間隔を狭めても一定の結果を出せる先発投手がいなければ長期的には安定しないので、マクガフ投手が抜けたことで枚数が少なくなった救援陣のことも考えて、また次の優勝を見据えて色々なことを試していくのでしょう。

先発のQS区分ごとの勝敗

先発投手のQS区分ごとのデータを見ると、また違った特徴が見えてきます。安定したQS率を誇る阪神が優位に見えますが、実質的にエース対決の試合と言えるQSXの試合の貯金を見ると、つぶしあいでは広島とDeNAが優位であることが分かります。どのチームとの対戦がどれだけ残っているのかということまでは把握していませんが、登板間隔によらずQSを稼げるカープが優勢と言えるでしょうか。とはいえ今季のDeNAはQS率の割にかなりの貯金を稼げている、面白い存在です。"神サイ・ヤング勢"のバウアー投手を中4,5日で出しながら、間に今永投手、東投手、他の投手が入る運用を実践し始めた今後も期待できるので、例年にない優勝争いが見れそうで楽しみですね。

打線の被QS区分ごとの勝敗

今度は少し分かりにくいですが、打線が相手先発にどのようなパフォーマンスをさせたかという区分ごとの勝敗です。先程とは逆に、被QSは高いほど悪く、被lostSは高いほど良いということになります。これを見ると、そもそもの選手層が薄い(薄くした)中日以外は被QS率にそれほど変わりがないので、"打線は水物"という野球界の故事がデータに表れていると思います。打線がいくら良くても、やはり投手の平均レベルが高くないと上位は維持できないので、投手が投げ心地良く試合で投げ続けるための、救援陣も含めた運用を大事にする方向に球界が変わってきているように思いますね。とはいえ、被lostSでの貯金が多い阪神や巨人、DeNAは打てる投手は研究して確実に打って抑える、強いチームに欠かせない戦い方を心得ていると言えるでしょう。特に最近の巨人は外国人野手を取ってきて、活躍させるのが上手いなと感じます。

 

パ・リーグ

先発の登板間隔ごとの勝敗

※初登板の得失点が間違っていることが分かりました。シーズン終了時に訂正版を上げたいと思います。

高卒投手のプロスペクトを抱えるチームが躍進しているパ・リーグはセ・リーグの異なり、上位チームでも登板間隔を広げた運用をしています。色々なチームで投手コーチとして結果を出した吉井監督になった時点で予想はしていましたが、「中7日以上」が60%を占めているロッテはかなり気を使って登板管理していますね。野球界の希望である佐々木朗希投手の獲得が変わる大きなきっかけになったとすれば、井口監督が基盤を作った5年間から理想的なバトンタッチができているということでしょう。

若齢のプロスペクトで史上最高級のローテを完成させている首位・オリックスも同様ですが、他球団とはローテの質が段違いのため、若手に無理をさせない運用でも貯金を稼げており、手が付けられない状態になりつつあります。トミー・ジョン手術を経験した山﨑颯一郎投手や阿部翔太投手らを上手く使っている救援陣も隙が無くなってきました。しかしそれ以上に、この3年という短い期間で選手が入れ替わりながら成長を続けている生え抜き主体の打撃陣も素晴らしいです。昨年の育成4位の茶野篤政選手や2Aが主戦場だったセデーニョ選手が活躍できているというのは、固定観念にとらわれない現代的な改革ができている証拠ですよね。資金力があり、元々常勝球団になる素質のあったチームですが、長い長い暗黒期から突然、黄金期に変わったのはそういう内部努力が功を奏してのことだと思いました。

一方のソフトバンクはエース・千賀滉大投手の放出で予想された分、どの登板間隔でもQS率、wS率ともに低くなっており先日には遂に"27年ぶりの9連敗"を喫してしまいました。近藤選手を補強し、柳田選手と中村晃選手もまだ健在の打線のおかげでギリギリ保っていましたが、投手力が大事なペナントレースでこのまま常勝球団でいるのは限界と言えるでしょう。"5年連続日本一"も果たした工藤ソフトバンク時代もQS率はそれほど高くありませんでしたが、生え抜き、外様ともに勝負強い選手が揃っていた打線とサファテ投手、森唯斗投手、モイネロ投手ら超優秀なリリーフ陣のおかげでそれが目立ちませんでした。今年は得点力と存在感のあった(元気な)デスパイネ選手、グラシアル選手の穴を感じる場面も多いですから、そういった戦力によって日本一を掴んでいたチームなんだとフロント陣が客観視することが肝要です。ただ、補強ばかりにとらわれて選手を見てないと黄金期へ戻るのに遠回りになってしまいます。今年はかなりの大補強をして臨んだシーズンですが、補強することで余計な縛りを作ってしまうようでは活きの良い上位チームから周回遅れになってしまうと思うので、"優勝至上主義"から来る長期的スパンを考えない選手の運用法という根本的な部分の固定観念を無くしていかなければなりません。そういうのが、案外難しいのかもしれませんが。

そういった部分を無くせつつある兆しが見えるのが、最近の楽天でしょうか。田中将大投手が本格的に衰えてしまったためQS率は良くないですが、今年は早川投手に加えてルーキーの荘司投手もローテで回っており良い状態です。更に最近は小郷選手や村林選手ら一軍実績の少ない生え抜き野手が重い打順を連日任されるようになっており、ようやく理想的な運用ができるようになってきたように見えます。邪推すれば中堅陣に頼っていた打線が余りにも打てないからそこへ舵を切れたとも取れますし、田中将大投手や岸投手の衰えは避けられないことなので、救援陣も含めて細かいデータを介して今の選手の状況を見て運用していきたいところです。

そして、「中6日以下」のQSが前半戦トップの加藤貴之投手ら、同2位の髙橋光成投手らが引っ張る先発陣はある程度揃っているものの、打線の援護力が足りない西武と日本ハムが下位となっています。両チームともドラフトも育て方もノウハウがあって悪くないチームだとは思うのですが、主力野手が出ていきすぎるような状態だとやっぱり厳しいですね。流石にフロントもそこは分かっていると思うので、将来的に優勝を目指していくための明るいシーズンになっていくことを期待しています。

先発のQS区分ごとの勝敗

ここでも、QSした試合の貯金がかなり多く、レベルの高いローテを抱える上位2チームが強い要因がデータに出ていますロッテはトミー・ジョン手術リハビリ明けの種市篤暉投手と西野勇士投手が順調に戦力に戻ってきているのが嬉しいですね。両チームとも益田直也投手や平野佳寿投手といったベテランの抑え投手がいることも大きく、生え抜きのレジェンド級投手の存在感の高さが分かります。最近まで優勝圏内にいたソフトバンクはQS試合の貯金の少なさをwS試合を確実に取ることで補っていましたが、セットアッパーのモイネロ投手の離脱でそこも計算が立たなくなってきましたし、やはりここらで方針転換した方が選手の為です。前回の記事で指摘したように、5回まで投げた試合を取ることは優勝を狙うチームにとって重要事項ですが、その運用が続いて余計に救援陣を動員することで有望な選手の寿命を削っているなら、今年のオリックスやロッテの勝ち方の方がより健全だと思いました。

打線の被QS区分ごとの勝敗

基本的に投手力が大事とはいえ、安定した打力は精神安定剤になります。抜群の出塁力に決定力もある近藤健介選手を獲得したソフトバンク、移籍5年目、2500安打もいけそうな浅村栄斗選手がいる楽天は補強が効果的に働いていますから、世代トップ級の優秀な野手を補強することは、ある程度の強さを持続させるために欠かせません。やはり入ったチームで年俸に差は出てしまうので、そういった金払いの良いチームというのは必要でしょう。ただ、優秀な中堅野手だけでは優勝まではできません。ここ数年で悪化した極端な打低傾向は、これまでに述べた運用法の変化やデータ解析機器が普及してきたことで投手の選択肢が急激に増えたことが主要因だと思っていますが、この状況が続けば、常に不利な状況に置かれている野手の寿命というのはどんどん短くなっていくのかもしれません。しかし、せっかくDH制度があるパ・リーグなので、野手の運用でも柔軟性を持たせてもっと色々な年齢層、守備位置の選手が長く活躍できるような体制が整ってくればもっと良いかなと思います。過去に成功した方法や人の考え方がいつの誰にでも適用できるということは絶対にないと思うので、チームによらず今いる選手の感覚や身体、個性を慮るような運用が野手についても確立されていけばもっとプロ野球が面白くなるんじゃないか、というふうに最近勝手に思っています。読んでいませんが、おそらくコーチ時代の吉井監督が書いていた、「教えない~」とかいう自己啓発書には、そういうことも書かれているのでしょう。たぶん。

 

あまり重要視されませんが、野球というのは想像以上にメンタルスポーツだなと感じます。特に野手は動いていない時間が多く、瞬時の判断力の積み重ねなので、よりメンタルが大事になりますよね(救援投手もそうかな?)。データを主題にした記事を書いておいてあれですが、正直データなんて一面でしかないので、どうでも良いんです。浮き沈みがあって、環境に左右されるのが人間なので。データや体面ばかり気にしていると、どんどん自由や個性が失われていく。そういう流れに、イチローは最後に警鐘を鳴らしたのではないか・・・・・・アプローチや考え方は選手個人によって違っても、打線という形になって一定のパターンのチャンスが生まれては消えていく、本当に変わった面白いスポーツなので、今後も楽しんで見ていきたいと思います。

 

・・・画像を入れて気付きましたが、やっぱり長い表はスマホでは見にくいですね。また気が向けたらスマホ用の画像を作っておきます。

しかし暑いですね。くれぐれも熱中症には気をつけて。

 

おわり

 

 

参考サイト

- nf3 - Baseball Data House Phase1.0

プロ野球 - スポーツナビ

NPB.jp 日本野球機構