今日から宮崎でも本格的に練習試合が始まり、球春到来の季節が今年もやってきました。巨人がドラフト5位で指名した2メートルの18歳・秋広優人選手や西武ドラフト6位のタイシンガー・ブランドン・大河選手は打撃でさっそく能力の高さを見せつけています。今年は野手で注目のルーキーが例年に比べると多いので、将来のスター選手の華々しいデビュー年になりそうで今からワクワクが止まりません。
今回は2021年の12球団戦力分析の第三回で、昨年パ・リーグ3位に終わった埼玉西武ライオンズの戦力分析になります。どうぞご一読を。
1. 2020年の総括
シーズン成績
昨年の西武は辻監督就任以来最低の順位となる3位でシーズンを終え、3年連続のリーグ優勝を逃してしまいました。秋山翔吾選手が抜けた影響か主力打者が同時に不調に陥ったこともあり、一年通して自慢の得点力で優位に立てなかったのが誤算でしたね。それでも投手陣の頑張りもあって後半から調子を上げ、あと少しでCS圏内というところまで立て直したのは流石です。ここまで得失点差マイナスで勝率5割まで戻してきたのは、守備に重きを置く辻采配の本領発揮のシーズンだったと言っていいでしょう。
投手成績
先発陣は6年目の髙橋光成投手が成長を見せ、初の規定投球回に達しました。8月18日以降に限定すると13先発で10QS、そのうち5試合で6回以上を無失点で救援投手に繋いでチームを勝利に導くという圧巻の投球内容で、新たなエースの誕生を感じさせるシーズンでした。また、前季リーグ優勝の立役者となったニール投手と2年目の松本航投手も一年間ローテを守り、短縮日程の中でチームを支えてくれました。ただ二人ともQSを失敗した試合の防御率がかなり悪く、救援陣や打線に負担を与える登板が多かったのは反省点です。一方、この3人以外の先発投手は誰一人としてローテを守れず、合計59先発でQS率18.6%、12勝27敗と大きく足を引っ張ってしまいました。中でも前年結果を残し、ローテの中心として計算していたであろう4年目の今井達也投手が期待に応えられなかったのが痛かったですね。
先発投手が不甲斐なかった中、チームの屋台骨となってくれたのが救援陣です。特にタイトル争いを繰り広げたセットアッパーの平良海馬投手と抑えの増田達至投手はシーズン通して厳しい場面を投げ抜き、勝利に導いてくれました。同じく一年間ブルペンを支え、中盤からは僅差の場面を多く任されるようになった2年目の森脇亮介投手と組む勝利の方程式は球団史上でもトップレベルのものでした。また、新外国人のギャレット投手、ドラ1ルーキーの宮川哲投手も多くの登板をこなし、獲得時の期待通りの活躍を見せてくれました。3年目の田村伊知郎投手がロングリリーフを中心に結果を出したのも良かったですね。
昨年81登板した平井克典投手や小川龍也投手の近年多くの登板をこなしている救援陣が引き続きタフに登板を重ねてくれたのも首脳陣にとっては有難かったでしょう。しかし、Aクラスのチームの宿命とはいえ、とりわけここ三年は加速度的に救援登板数が増えているのは非常に心配です。主力先発投手のFAや怪我などが続いているのは同情したいところですが、今後好成績を維持するために先発投手の整備と救援投手の登板数管理が急務になっています。
打撃成績
打撃陣は先述の通り辻西武の象徴である『山賊打線』は鳴りを潜め、チーム打率が西武史上初の.230台と低迷するなど「らしくない」シーズンでした。源田壮亮選手は打率はまとめてきましたが盗塁数や長打率で成績を下げてしまいましたし、規定到達して初めて一桁本塁打に終わり、キャリアワーストのOPSで終わった森友哉選手と外崎修汰選手は最後まで調子を戻すことができませんでした。最後まで打率が下がり続けた山川穂高選手も含めチームの柱となる打者が一斉にここまで成績を落とすというのはあまり無いと思いますし、秋山選手のような中核選手が打線にもたらす影響の大きさを感じずにはいられない一年でした。その一方で、近年は成績が下降気味だった栗山巧選手が37歳にして全盛期レベルのOPSを残し、10年ぶりに四番を任されるなど打線の核となってくれたのは頼もしかったですね。また、リーグ最多の三塁打など走力も含めた長打力と積極性で尖ったものを見せたスパンジェンバーグ選手の貢献度も大きかったです。この2人の活躍が無ければ打線を組むこともままならなかったと思うので、昨年のチームMVPと言っても過言ではないでしょう。
全体としては、中村剛也選手も含めた主力野手の不調がチームの調子に直結した形となり、選手層の薄さを感じる一年でした。内外野ともにレギュラー野手を押しのけられるほどの活気ある若手の台頭が渇望されています。
2. 打順分析と相性分析
この節では毎回、少し変わった視点から見た2つのデータを見ていきます。
打順分析
一つ目は打順分析です。出塁率(OBP)と長打率(SLG)に加え、選手の得点貢献度を示すHPRP( 得点関与数[得点 + 打点 - 本塁打]/打席)を各打順ごとの平均と比較することで、リーグの平均的な打線と比べて、代打も含めて各打順にどのようなタイプの打者が置かれ、どのような仕事をしていたかを見ていきます(HPRPを使った経緯は以前の記事参照)。なお、このデータは簡単にパークファクターも反映したものになっています。
打順下の選手名はその打順にスタメンで置かれた上位2選手(8割以上スタメンで出ている場合はその1選手のみ表示)になっています。OBPgap(青棒)、SLGgap(橙棒)、HPRPgap(灰棒)は各打順における各指標のリーグ平均との差を示しています。
グラフを見ると、上位打線の得点貢献度の低さが目に付きます。成績を下げた主力野手が置かれていたクリーンナップも課題ですが、やはり一番の課題は秋山選手の穴を防げなかった一番打者でしょう。開幕からスパンジェンバーグ選手や鈴木将平選手、外崎選手らが起用されましたがどの選手もはまり切れず、特に出塁率が.290に留まるなどチャンスメークの面で大きく数字を落としました。適任者が出てこなければ後半戦のように盗塁ができる金子侑司選手に任せることになりそうですが、これまでの成績を見ても中堅手との兼任はキャパシティオーバーに思えるので、打撃力で勝る選手の復調と若手野手の台頭が欠かせません。
相性分析
もう一つのデータは対戦チームごとの相性分析になります。私が作った指標も使っているので、表で使っている各指標について補足説明をしておきます。
QS% : 先発投手のクオリティスタート(6回以上投げて自責点3点以下)試合の割合
QSP : QS試合における貯金;左横のW、L、DはQS試合における勝敗を示す
QR/G : 一試合あたりのクオリティリリーフ* ; 救援投手のリリーフ精度を示す
※ クオリティリリーフ[QR]とは、以前の記事でまとめた救援投手の"リリーフ成功率"を反映した指標で、成功率が80%を超えるとプラス、下回るとマイナスになるようになっている
aQS% : 相手先発投手からの被QS回避率 ; 打線が相手先発投手をどれだけ攻略できたかを示す
aQSP : 相手先発投手からの被QS回避試合における貯金;左横のW、L、Dは被QS回避試合における勝敗を示す
aQR/G : 相手救援投手からの被クオリティリリーフ回避の試合平均 ; 相手救援投手のQRに-1をかけた数値になっている ; 打線が僅差の展開で相手救援投手をどれだけ打っているかを示す
SBI/G : 自チームの一試合あたりの赤星式盗塁*から相手野手の一試合あたりの赤星式盗塁*を引いた数値 ; 攻撃時の野手の盗塁技術と守備時の盗塁阻止技術を併せた指標
※ 赤星式盗塁 = 盗塁 - 盗塁死 × 2
aEI/G : 相手野手の一試合あたりの失策数と失策による失点*の合計値から自チーム野手の一試合あたりの失策数と失策による失点*の合計値を引いた数値 ; 守備力ではなく、エラー回避能力を示す
※失策による失点は、投手の失点から自責点を引いた数字
これらの指標を使って勝敗や得失点差に加え、投手や打線の各対戦チームに対する相性や盗塁、エラーの対戦チームごとの傾向を見ていきます。
平均よりある程度高いか(赤)、平均程度か(緑)、低いか(青)で色分けしています。 上位チームに対して貯金を作れているのが、今年のAクラス入りの要因でしょうか。しかし、個人成績に表れている通りどの対戦相手に対しても先発陣のQS率が悪く、打撃陣も相手先発を打ち崩し切れなかったこともあって全球団に対して得失点差がマイナスになっています。リーグ最高レベルの救援陣の頑張りで大きく借金を作ったチームが無いのは良い点ですが、この急場凌ぎの戦い方ではいつか歯車が合わなくなると思うので、今年の若手先発陣の発奮が今後Aクラスを維持するための絶対条件になっています。
3. シーズンオフの選手の動きと新外国人分析
オフの選手の動き
昨年のドラフトは、早川投手のくじを外したこともあり投手の指名は注目社会人左腕の佐々木健投手と準硬式野球部出身の大曲錬投手のみだった一方、渡部健人選手、若林楽人選手、タイシンガー・ブランドン・大河(登録名:ブランドン)選手の大卒即戦力野手の指名が印象的でした。懸念の投手よりも三塁や外野を守る野手の補強を優先したことから、フロントとしても現在の控え野手の層の薄さを重く見ており、次世代の主力野手の育成を急いでいることが分かる指名でした。この3人の加入が同じポジションの若手野手にもたらす相乗効果にも期待したいですね。
課題の投手陣では他に、日本ハムからトレード移籍した吉川光夫投手と新外国人のマット・ダーモディ投手(次項参照)を補強しました。二人ともチームに不足している左腕であり、起用法にとらわれない活躍に期待です。そして、国内FA権を持っていた増田達至投手が宣言残留したのは昨オフ最大の嬉しいニュースでした。豊田コーチのシーズンセーブ記録を塗り替え、名球会入りするくらいの大投手になる過程を今後も見たいですね。
新外国人分析
この項では、今年からNPB入りとなる選手の過去の成績を見ていきます。西武が獲得したマット・ダーモディ選手は緊急事態宣言による入国規制のため未だ来日の目処が立っておらず、開幕にも間に合わないことが濃厚ですが、一応早いうちに一軍に合流する想定で分析します。
来年31歳になるダーモディ選手は150km/h程度のツーシームとスライダーを武器とする長身左腕で、米国では主に救援投手として起用されてきました。メジャーで最も登板した2017年は23試合に救援登板して防御率4.43、WHIP1.25という成績を残していますが、右打者には被打率.326、被本塁打6と打たれており、西武が課題とする先発投手として起用するには少し心許ないデータを示しています。ただ翌年の2018年5月にトミー・ジョン手術を受けていることを考えると、肘の故障を抱えていたことに由来する成績と見た方が良いのかもしれません。渡辺GMもあくまで先発候補として期待しているようなので、うまくNPBのボールに順応して西武投手陣の救世主になってほしいですね。
4. 2021年の予想布陣
最後に今シーズンの予想布陣を見ていきましょう。 投手、野手ともに昨シーズンの成績と一軍実績や年齢、最近の二軍成績や記事をもとに、今年の陣容を考えてみました。実績があっても怪我や未入国のため計算できない選手もいるため、選手の背景色によって選手の状態(赤はほぼ異常なしと思われる選手、青は故障の影響が大きいと思われる選手、灰色は未合流の選手、緑は開幕時点で育成契約の選手)が分かるようにしています。年齢や怪我の状態を考慮して実績があっても載せていない選手もいますが、その点はご了承ください。
投手陣
※疲弊度は、以前の記事でまとめた昨シーズンの"勤続疲労"を示す指標で、登板間隔が短く投球数が多いほど大きくなります。
先発陣は、開幕投手に内定している髙橋光成投手のエースとしての飛躍に大きな期待が懸かります。昨年後半の内容を維持できればタイトル争いにも絡んでくると思うので、"西武の背番号13"に見合う素晴らしい成績を残してもらいたいです。そして2番手のニール投手の来日が遅れているため、実質的な2番手候補となる松本航投手は昨年の雪辱を期す今井投手とともに、一年間ローテを守ることが求められます。多少打たれても良いので、強気のピッチングで長いイニングを投げることに拘ってほしいですね。4番手以降は決まっていないので、2年目の浜屋将太投手やアンダースローの與座海人投手、昨年成績を落とした十亀剣投手、本田圭佑投手らの競争になります。先発に本格転向する平井克典投手や2年目の20歳・上間永遠投手も相当な覚悟でローテを獲りにくると思うので、一年間高いレベルで鎬を削り合ってほしいですね。そして、高卒3年目の渡邉勇太朗投手の鮮烈な一軍デビューも注目です。師匠の内海哲也投手に引導を渡すくらいのブレイクに期待したいですね。
救援陣は、今年も森脇-平良-増田の勝利の方程式が軸になります。"MTM"という名がファンやマスコミに浸透するくらいの活躍に期待したいです。そして、脇を固めるギャレット投手、宮川投手が成績を上げてくれれば、もうかつての西武の救援陣のイメージは無くなるでしょう。田村投手も勝ち展開を多く任されるくらいの信頼を勝ち取っていってほしいですね。オフに肘を手術した小川投手の状態が心配な救援左腕は佐野泰雄投手と日本ハムから移籍した吉川光夫投手らが担うことになるでしょうか。吉川投手は先発としても計算できるので、役割によらない大車輪の活躍に期待です。若手にも2年目の井上広輝投手や4年目の伊藤翔投手など有望株がいますし、彼らの成長によって投手陣全体が底上げされ、勝ち継投の投手の負担軽減ができれば5年連続のAクラスは堅いでしょう。
野手陣
野手陣は、昨年の成績をもとに3パターンの予想打線を組みました。パターンAが昨シーズンの最も良い時の打線をベースにした理想打線、パターンBが二年目のジンクスを考慮し、昨シーズンブレイクした選手を除いて実績や経験を重視した打線、パターンCが年齢や体調不良によるパフォーマンス低下を考慮し、若手を多く起用した打線になっています。
『山賊打線』の名誉挽回を目指す野手陣は、その中核選手である山川選手、森選手、外崎選手、源田選手の打力回復が欠かせません。昨年の不調は守備の負担も含めた肉体的疲労やメンタル的なものも大きいと思うので、しっかり自己分析してキャリアハイの成績を残してほしいです。この4人がしっかりしていれば、また優勝争いができるチームに戻るでしょう。また、スパンジェンバーグ選手は来日が遅れていますが、正三塁手としての活躍に期待です。見た目の出塁率に反して生還力が高い選手なので、もう一度上位打線でも試してほしいです。
20年目を迎える栗山選手と中村選手もまだまだ成績を残してくるでしょう。栗山選手は西武一筋で初の2000本安打が迫っていますし、是非スタメンで達成しているところを見たいですね。もっとも、このベテラン2人と金子選手や木村文紀選手のレギュラー野手が今年もスタメンに耐えうる成績を維持できる保証は無く、更に外国人選手の来日が遅れているので、今のスタメン陣を脅かす若手野手の台頭が必要不可欠です。春季キャンプでA組に入っているルーキーの若林選手やブランドン選手、同じくルーキーでドラ1の巨漢内野手・渡部選手、4年目の高木渉選手らは新人王候補に挙がるくらいの活躍を見せてほしいですね。そして、同じくブレイク候補の内野手である山野辺翔選手、佐藤龍世選手にも大きな期待が懸かります。佐藤選手は昨年野球以外で話題になりましたが、それが上書きされるくらいの絶対的な主力選手になることで恩返ししてほしいですね。
5. 終わりに
以上、2021年の埼玉西武ライオンズの戦力分析でした。今年は近年で最も世代交代を意識しなければならない一年になります。そういう意味では我慢して若手を重用することも必要になってきますが、今の主力選手がしっかり働けば優勝圏内に入るチーム力があると思うので、今度こそCSを突破して日本一の栄誉を掴み取ってほしいですね。
次回は昨季パ・リーグ4位の東北楽天ゴールデンイーグルスの記事になります。それではまた。
6. 参考サイト
- nf3 - Baseball Data House Phase1.0 2020年度版